浸水した内部(撮影:新建新聞社中澤幸介、2019年11月29日)

心強い外部支援者

【松村氏への聞き取り】
・今回は、災害派遣医療チーム(DMAT)や自衛隊が来て、6人で1チームをつくって搬送してくれた。医療施設があるのでDMATが来てくれたが、福祉施設だけだったら果たして来てくれただろうか。
・避難所となった豊野西小学校は、混雑がひどくて環境が良くない状況が続いた。さらに同じ被災者でも、避難所にいる人と在宅の人で格差があるのは問題だ。
たとえば、避難所にいるとタクシー券がもらえるが、在宅ではもらえない。こういう時、西日本豪雨災害などで支援活動の経験豊富なNPOはありがたいと思った。向こうの状況をうまく行政職員に伝えてくれて、課題が解決できることもあった。

[鍵屋コメント]
かつて2004年新潟県中越地震で被災した福祉施設の施設長は、医療機関にはすぐにDMATが入り、その後も医師、看護師などが支援に来てくれるが、福祉施設にはまったく支援者が来ないと嘆いていた。それは医療が災害救助法の対象となっているのに対し、福祉が法の対象になっていないことに起因する。

その後、民間の福祉関係者有志が災害福祉広域支援ネットワークサンダーバードを立ち上げ、相互扶助で活動している。近年は厚生労働省が各都道府県に呼び掛け、災害福祉支援チーム(DWAT)もいくつか創設されるようになってきた。また、その派遣費用が救助法から支給されるという通知も出た。近い将来、きっと大きな活躍をすると期待を寄せている。

地域貢献活動

【松村氏への聞き取り】
・もともと賛育会は、100年前に東大のYMCAの有志が貧しい庶民のために無料診療を行ったことから始まった。キリスト教の精神「隣人愛」にもとづき、婦人と小児の保護・保健、救療を目的として「賛育会」が創立され、東京都墨田区で日本初の産院を開設した。地域の必要に応じて地域を変えるDNAを持っている。
・クリニックや福祉施設が使えなくなって、収入はがた落ちしたが、職員の完全雇用を宣言した。人手があって時間があるのだから、地域貢献は当然だ。ボランティアセンターを手伝ったり、NPOと一緒に子ども食堂や炊き出しをしたりする活動を積極的に行っている。
・夜間避難訓練をしているが、普通に、地域の方に避難誘導を支援してもらっている。地域福祉計画作成のときに自治協議会の区長さんと知り合って、このような活動ができるようになった。

[鍵屋コメント]
高い志と、地域の必要に応じて地域を変える柔軟性をあわせ持つDNAがあったのかと感銘を受けた。職員は地域住民なので、その雇用を守ることは地域を支えるとても重要なことだ。だから、地域の方も自然に事業所を支えようとするのだろう。

再建に向けて

【松村氏への聞き取り】
・昨年11月5日に仮診療所をオープンして少しずつ動き始めたところだが、職員の人件費負担など厳しい状況が続く。福祉施設の再建の仕組みづくりが必要だ。
社会福祉法人ではあるが、経済産業省の中小企業等グループ施設等復旧整備事業補助金を使えないかと検討している。自分たちだけで補助を受けることができないが、他の法人と連携することで可能になる。
・福祉避難所が活用されなかったが、住民に十分な周知がされていなかったのではないか。福祉BCPは単体の福祉事業者が行うだけでなく、地域包括BCPを考えておくべきだ。復興を地域で考えることにより、中小企業等グループ施設等復旧整備事業補助金の活用が可能になる。
・私たちは法人に体力があったので、職員の雇用を守れているが、小さいところは大変だ。災害や不慮の事態を考えると、法人の大規模化が必要ではないか。

[鍵屋コメント]
国や自治体は、福祉施設に向けて、避難確保の重要性を呼びかけ、津波危険地域、浸水想定区域や土砂災害警戒区域では避難確保計画が法律で義務付けられている。しかし、その後の対策はほとんど考えられていない。

災害後に利用者、職員を守るためには、事業継続(BC)が不可欠であり、また地域住民を守るためには福祉避難所機能を果たすことも期待されている。賛育会はさらに、地域全体で福祉サービスを継続できる地域包括BCPをも検討すべきとしている。

災害前から、このような仕組みが広がるように私たちも研究を深めたい。

(了)