社会課題のビジネス化の特徴
社会課題のビジネス化はソーシャルビジネスと呼ばれている。これは、社会的な課題をビジネスの手法を用いて解決に導く事業のことである。社会課題のほとんどは、人の手で作り出されたもので、そのため人々が力を合わせることによって解決に導くことができる。
社会課題のビジネス化の目的は、これまでの短期的な利潤最大化を目的にせず、社会的価値の向上を目的にしている。その意味では、現在の資本主義における経済理論の構造とは異なる視点からビジネスを捉える必要がある。これまでの経済活動においては利己心に基づく効率至上主義に陥りがちとなるが、利他心で社会課題の解決をビジネスに組み込む点に特徴がある。近隣が栄えれば企業も栄えるといった言葉があるように、相乗効果を意識すると、企業にとって外側の世界ではなく、むしろ中長期的には、最も重視すべき関係先といえる。企業にとってはこの活動を通じて、効果的に人的資本と社会関係資本の拡大につなげ、将来のビジネスフロンティアの開拓につなげてゆくことが重要である。
社会的インパクトとソーシャルイノベーション
社会課題の解決に向けたアプローチは、ソーシャルアントレプレナーシップ(社会起業家)、ソーシャルエンタープライズ(社会的企業)、ソーシャルビジネス(社会的ビジネス)、ソーシャルイノベーションなど様々な用語で呼ばれてきた。この中で、ソーシャルイノベーションという用語は、セクター、分析範囲、方法論といった個別の要素を超えて、それらを一括りにして表現したものといえる。
2003年に設立されたスタンフォード大学経営大学院センター・フォー・ソーシャルイノベーションでは、ビジネスと政府とNPOなどの社会セクターをつなぎ、イノベーションの実践知を発信する目的でSSIR(Stanford Social Innovation Review)を立ち上げ、その後、発行母体をPACS(Center on Philanthropy and Civil Society)に変え積極的な発信を続けている。
SSIRによるソーシャルイノベーションの定義は次のとおりである。
「社会課題に対するまったく新しい解決策で、既存の解決策よりも、高い効果を生む・効率がよい・持続可能である・公正であるのいずれかを実現し、個人よりも社会全体の価値の創出を目指すもの1」
※1 SSIR Japan『これからの「社会の変え方」を探しにいこう』2021年、英治出版、P.21
SSIRは、最近のソーシャルイノベーションの事例を、10例挙げている(図表―1を参照)。
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