2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。

日比谷総合法律事務所・多田敏明弁護士

有効な対策がとられなかった金型の無料保管

ーー下請法違反による勧告が増えています。
2023年度は 13件、2024年度は現時点で 17件(3月3日段階)と、勧告数が 2019年度~2022年度と比べて突出しています。特にほとんど勧告のなかった金型の無料保管に関する是正勧告は2023年度に3件となり、2024年度には8件まで増え、是正勧告の半数を占めました。最近でも大手ポンプメーカーの荏原製作所が勧告を受けています。

これらは金型の保管費用を下請会社に負担させる行為が違法であるとの周知と、啓発期間がすでに終了し、今後、積極的に摘発していくという公正取引委員会の意思表示であると考えられます。金型の無料保管問題は、過去10年ほど下請法上問題であると繰り返し指摘されてきました。中小企業庁は 2019年に「型取引の適正化推進協議会」の報告書をまとめ、取引ルールまで定めました。それでも、企業は十分に対応しなかった。今後も是正勧告は続くでしょう。

ーー金型の無料保管に関する勧告が増えている理由は?
やはり、多くの企業が「周知期間」に有効な対策を打たなかったからです。自動車や家電は大量に製造する量産期間が終わっても、後々のメンテナンスや修理を考慮しなければならない。量産期間が終わったからといって、部品用の金型を廃棄できません。車の部品ならその目安は約10年です。これはあくまでも目安です。

しかも、下請企業による金型保管は長く慣例とされてきた行為。大量に下請企業が保管しているのが実情でしょう。親企業の中には、保管数の突き合わせだけでも苦労している例があるようです。

ーーそれにしても勧告数が急増しています。

金型保管の重点摘発で、重要なポイントは公正取引委員会内の執行方針とそれを実施する担当部門の推進力です。下請法違反を調査するのは、公正取引委員会の取引部にある下請取引調査室。現在の室長は強い使命感を持っているようです。特に大型金型の大量保管は、下請企業にメンテナンスコストの負担や生産効率の低下といった不利益を与えているため、摘発されています。堅い言葉で言えば、「不当な経済上の利益の提供要請」になります。