リスクマネジメントの世界でクリエイティビティを生かすには(イメージ:写真AC)

イノベーションの文化をリスク管理に浸透!?

私は、イノベーターと話すことは、どちらかと言うと苦手です。ある種の恐れを感じるからです。実際に講演などを聴いても、何を話しているのかわからない部分も結構あります。ダンカン・ウォードルさんの話も「飛んでいる」と感じました。

ダンカンさんは、ディズニーのイノベーション&クリエイティビティ部門トップだった方です。昨年の11月、米国のオーランドで彼の話を聴いたときも、なんだかワクワクする気持ちと、あぁ、ちょっと背伸びしても届かないかもと思う不安感とが浮かんできました。

サイバー攻撃の技術や組み立てにおいて、連中の「業界」は、とてもイノベーティブです。善悪を別にして、とても発想と資金が豊かです。しかし、守る側はと言えば、身を固くしているためか、発想も予算も保守的になってしまいがちです。

本邦のサイバーセキュリティ基本法を久しぶりに読みましたが、どうも堅苦しくて息が詰まりそうです。敵は、フーディを被ってチップスをカリッとやりながら攻めて来るのに、こちらはネクタイして、メールや書類をつくって、言い訳して、忙しくて、会議をこなして…。

先月、ダンカンさんの話をまた聞くことができました。ISFポッドキャストで『イノベーションの文化を組織のDNAレベルまで浸透させる』というタイトルです。昨年お聞きした1時間のキーノート講演のダイジェスト版という位置づけの対話ですが、今度は腑に落ちる部分が多かった印象です。我々にとってポイントとなると思われるポイントを外さずに、すくい取っていきたいと思います。

まず、クリエイティブとは何か、イノベーティブとは何かの定義を聴かれて、ダンカンさんが答えています。

(以下、引用)


1.クリエイティビティとイノベーションの違い

ダンカン・ウォードル:ほとんどの人は自分をクリエイティブだとは思っていませんよね?「自分はクリエイティブだと思う人は手を挙げてください」と聞いても、手を挙げる人はほとんどいません。

イェール大学で実験をしたことがあります。大学生が3000人いたので「6歳児を30人連れてこよう」と思い立ちました。彼らを先生と一緒に中央に座らせて「クリエイティブだと思う人は手を挙げて」と聞くと、全員が「はいはいはいはい!」と手を挙げたんです。でも、周りの3000人は手を下ろしたままでした。

ところが、AIが市場に本格参入する今後10年で、クリエイティビティは最も求められるスキルセットの一つになります。私の定義では、クリエイティビティとは「アイデアを思いつく能力」です。これは誰でも毎日できることだと思います。一方で、イノベーションは「それを実現する能力」です。実に難しいところですけれど。

子どもはみなある意味でクリエイター(イメージ:写真AC)

スティーブ・ダービン:今後、そうした(AIの普及によってクリエイティビティとイノベーションがより重要になる未来に)ビジネスチャンスが広がっていくというお話ですが、企業はそれに気付いているのでしょうか? つまり、大手企業はどうでしょう?ディズニーやピクサーのような会社は当然理解しているでしょうが、一般的な企業はどうですか?

ダンカン・ウォードル:いいえ、まだ気付いていませんね。でも、いずれ気付くでしょう。私は、今度の問題が起こる前にテルアビブに行って、GoogleのAIプロジェクト「DeepMind」で仕事をしていました。そのとき、28歳のエンジニアと話したんです。彼女はこの部屋くらいの脳みそを持っているような天才で、彼女が言っていることのうち、私が理解できたのはほんの少しでした。

それで私は彼女に「僕は、こんなAIとどうやって競争すればいいの?」と聞いたんです。すると彼女は「AIにプログラムするのが最も難しいスキルが、これから最も求められるスキルになるのよ」と言いました。私が「それは何なの?」と聞くと、彼女は「あなたが生まれつき持っているものですよ」と答えました。それは、クリエイティビティ、想像力、共感力、直感、好奇心だと言うのです。

ところが、私たちは学校で「線からはみ出さずに色を塗りなさい」「なぜ?と聞くのはやめなさい。答えは一つだけだから」と教えられます。つまり、教育は今後、最も求められるスキルを潰しているのです。

大人になるにつれて捨ててきた能力こそが、実はAIに真似のできない能力(イメージ:写真AC)

スティーブ・ダービン:では、その状況に対して私たちは何ができるでしょうか?

ダンカン・ウォードル:私は、忙しく働く普通の人たちにとって「イノベーションをもっと身近で敷居の低いものにすること」が重要だと思います。曖昧さが苦手な50%の人にもクリエイティビティが具体的に見えるようにするのです。そして何より大事なのは「プロセスを楽しいものにすること」です。

人は楽しんでいるときに、自ら進んでツールを使いたくなるものです。実際、私たちがディズニーで開催した2日間のボランティア制のトレーニングプログラムは、3年半待ちの状態になりました。これは正しいことをしている証拠だと思います。私が大切だと思う原則は➊シンプルであること➋パワフルであること➌楽しいことです。
                                     (引用、一旦ここまで)

少し聞いただけでも、ああ、サイバーセキュリティの業務や、リスク管理の仕事、BCPの会議では出てこない単語ばかりではありませんか。クリエイティビティ、想像力、共感力、直感、好奇心…。およそリスクを管理する仕事は、ディズニーのトレーニングとは正反対。➊複雑なことばかりで➋影響力もそれほどでもなく➌しかめっ面で腕組み。では、どうすればいいのでしょうか?