気候とビジネスのリスク・シナリオ-第二部:最悪のシナリオ
最悪シナリオから見る2030年は、医療機関にとって多難な時代だ。外来患者が増え、訴えてくる症状も多様に。介護施設では利用者の安全と健康の維持に、いっそうの負担がかかる。製薬会社は原料調達に加え、新薬開発に関わる生物資源の減少という最大の損失が見込まれる。
増加する患者、多様な症状
2030年の夏、全国の病院には地球温暖化がもたらした多種多様な病状の患者がやってくる。熱中症や脱水症、栄養不足、体力や免疫機能の低下、持病の悪化などさまざまだ。いずれも、われわれ人類が長い間慣れ親しんできたノーマルな気温や環境での生活ができなくなったことが根本的な原因である。
一朝一夕に解決するのは不可能であるため、その場しのぎの治療で済ませる他はない。かつてのコロナ禍をしのぐ勢いで、朝から晩まで患者が殺到する医療機関の対応はひっ迫し、医師、看護師、救急隊員の多くは疲労の限界を迎える。
一方、熱帯性の感染症と呼ばれる蚊やダニなどの媒介者を通じて広がる媒介性疾患の増加や、生態系の変化による花粉症やアレルギー疾患の増加も懸念される。後者の場合、気温の変化や植物相の変動はアレルギーを引き起こす物質の放出を増加させ、これにより患者数が増えるだろう。これに対応するには、新たな治療法や診断方法の開発が急務となる。
気候変動はメンタルヘルスにも深刻な影響を与える。極端な気象条件や自然災害の増加は、人々の疲労やストレス、不安を増幅させ、自殺者や犯罪者を増やしていく。これらは同時多発的に起こるため、医療機関の負荷を急増。具体的な原因の特定や公的なメンタルサポートも追いつかない。
物理的な影響も考慮しなければならない。風水害による浸水や停電などは病院の機能を損ない、医療の提供が困難になることもしばしばだ。これに対処するためには、堅牢な建物や非常用インフラの整備、そして何よりもBCPの策定と運用が不可欠だ。物理的な対策に伴うコスト増は、病院の財務を圧迫するだろう。
耐災性の向上や再エネなどの持続可能なエネルギーの導入など、気候変動への適応策の実施には大きな経済的な投資が必要だ。適切な対策が追いつかない2030年にこのことに気がついても、医療サービスの提供は段階的に損なわれていく他はない。
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