日枝久氏の退任を発表(Tipstour/Adobe Stock)

フジテレビ取締役相談役の日枝久氏の退任が発表された。中居正広氏と女性とのトラブル問題で露呈した、危機管理能力の欠如。多くのスポンサー企業が一斉に撤退した。果たしてこれで企業CMは戻ってくるか。「ビジネスと人権」の観点から振り返る。

ようやくの辞任発表

フジテレビ新役員体制(同社HPより)

フジテレビ取締役相談役の日枝久氏がついに退任した。親会社のフジ・メディア・ホールディングス取締役相談役も6月の定時株主総会で退任予定だ。1月17日の「静止画」記者会見後に、明治安田生命やトヨタ自動車等がCM打ち切りや見直しを表明したことを皮切りに多くの企業が追随。一部でCM出稿を継続している例もあったが、300社を超える企業がフジテレビへのCM出稿を見合わせたりAC広告に差し替えたりといった方策を選択した。

これ以上の経営への悪影響を避けるべく、第三者委員会の報告書公表と4月からの番組編成を前に「辞任カード」を切った形だ。

果たしてこれで企業CMは戻ってくるか。第三者委員会報告書の内容と再発防止策およびガバナンス改革案の実効性次第なところもあるが、ここでは今回の「フジテレビ事件」における企業CM打ち切り判断について、「ビジネスと人権」の観点から振り返ってみよう。

まずフジテレビは、2月27日に「再発防止・風土改革」の途中経過案の概要を公表したが、これは企業CM復帰の動きにはつながらなかった。この案は2月6日にフジテレビが発足させた「再生・改革プロジェクト本部」の「再発防止・風土改革ワーキンググループ」での議論を踏まえて練られたものだったが、

(1)コンプライアンス体制の実効性の強化
(2)コンプライアンス違反やハラスメント・人権侵害に対する処分の厳格化  
(3)通報制度を利用できる対象者の範囲の明確化・周知徹底
(4)会食・会合ガイドラインの策定
(5)人権・コンプライアンスに関する研修・トレーニングの実施
(6)人権デューディリジェンスの一環としての「対話」の開始

という6本柱からなる内容だった。しかし例えば(1)は「全ての部における部長をコンプライアンス担当者に任命しコンプライアンス部門への速やかな報告義務を明確化する」といったもので、フジテレビ程度の企業規模ではあるのが当たり前という内容に過ぎない。あくまでも途中案ではあったが、現在の企業コンプライアンスの平均的な水準に照らすと何とも頼りない内容だ。この失望感が各社の企業CM打ち切り判断を覆すには至らなかった背景にあるだろう。