クラシルを運営するdely社からの報告( 同社HP【重要なお知らせ】クラシルの広告表示に関するご報告 より)


今月に入り、政府機関や大手出版社の施策が次々とSNS上で話題になり、思わぬ批判の的になっています。広告炎上はもはや「例外的な事態」ではなく「起こり得る日常的リスク」になりつつあります。

本稿では、最近の主要な炎上事例を分析し、企業が直面する広告表現のリスクとその対応策を実践的な視点から解説します。

最近話題になった広告

厚生労働省「ODするよりSDしよう」キャンペーン

羊を使ったODキャンペーン動画は取り下げられた(soraneko/Adobe Stock)

若者の間で深刻化している薬の過剰摂取(オーバードーズ)問題に対応するため、厚生労働省は「つらい気持ちになったなら、ODするよりSDしよう。相談しよう」というキャッチコピーのアニメーションを制作しました。

悲しげな羊が片手に薬の瓶、もう片方の手にスマートフォンを持ち、薬を捨ててスマホで相談するという30秒のアニメーションで、政府広報の公式Xが3月3日に投稿。この広告はわずか2日で500万回以上閲覧されるという異例の拡散力を示しました。

しかし、韻を踏んだキャッチーなフレーズや明るいトーンに対して、「メッセージが酷い。オーバードーズするまで追い詰められた人にとって、相談は容易ではない」「そんなにライトなモノじゃない」「ODを知らない人が選択肢に入れちゃいそう」など批判的なコメントが殺到しました。一方で、「実際にODを行う若年層にはこれくらいキャッチーなフレーズでないと届かない」との擁護の声も上がり、評価が二分しました。

日本郵政「すっぴん女性VS配達員」動画
日本郵政が3月5日に公式Xに投稿した動画は、「絶対にすっぴんを見られたくない女 VS なんとかサインをもらわなければいけない配達員」と題したものでした。この動画は、ゆうパックの配達時に受領印・サインが省略できるようになったことを周知する目的で制作されたもので、コミカルな演出が特徴でした。

配達員の男性が受領印・サインをもらおうとする一方、女性は「今すっぴんで顔を見られたくない」として面会を拒否。おもちゃのロボットアームを駆使するなど、荷物の受け渡しがスムーズにできない様子をユーモラスに描いていました。しかし、「女性をばかにしている」「女性の防犯意識をやゆしている」「『すっぴん=恥』という固定観念を助長している」といった指摘が次々とSNSに寄せられたのです。

批判の高まりを受け、日本郵政は投稿翌日の3月6日に動画を削除し、「今後は細心の注意を払い、再発防止に取り組んでいく」との声明を公式Xに投稿しました。しかし、動画の制作意図について詳しい説明がなかったことから、「あの動画をなぜ作ったのか説明してほしい」との声も上がりました。

料理サイトの不適切広告問題
「クラシル」や「オレンジページnet」などの料理レシピサイトで、性的コンテンツの広告が掲載されるという事態が発生しました。この問題が大きく取り上げられたきっかけは、3月9日にあるXユーザーが「クラシル」上に性的コンテンツの広告が表示されたと投稿したことでした。

家庭料理に関心のある一般ユーザーが利用するサイトに「子宮」などの表現を含む性的コンテンツの広告が表示されたとして、「広告のゾーニングをしっかりしてほしい」といった批判の声が多数上がりました。

この指摘を受け、オレンジページは3月10日に「弊サイトで表示される広告の一部に、不適切な内容が含まれているとの指摘をいただいている」として公式Xで謝罪。「複数の広告ネットワークを利用しており、各広告ネットワーク側の審査やフィルタリングにより、不適切な広告は自動的に排除される設定になっているが、今回、その審査をかいくぐった広告が掲載された」と説明しました。

クラシルを運営するdelyも3月11日、指摘のあった広告について「速やかに掲載停止措置を講じている」と発表し、各広告ネットワークに対し原因究明と再発防止策の徹底を求めていると説明しました。

ファッション誌「CLASSY.」が不適切表現で謝罪
ファッション雑誌「クラッシィ(CLASSY.)」が、4月号に掲載した「オペ看護師が主人公! スカートしばりの着回しDIARY」と題した企画において不適切な表現があったとして公式サイト上で謝罪しました。

医療従事者からは「手術室で働く看護師の専門性や責任の重さが理解されていない」「命に関わる現場の厳しさが全く伝わってこない」といった声が上がりました。また「スカートしばり」という表現も、実態とかけ離れているという批判もありました。

光文社は批判を受けて、「医療従事者の皆様の専門性や日々の尽力に対する敬意を欠いた表現があった」として謝罪。今後は各分野の専門家への取材を徹底し、実態に即した表現を心がけるとの改善策を発表しました。

広告や企画を制作した企業や団体が本来伝えたかったメッセージとは別に、思いがけない批判を受けてしまう原因はどこにあるでしょう。

なぜ意図したようには受け取られず、むしろ批判の的になってしまうのか。その背景には、制作側が気づきにくい「隠れたリスク要因」が存在しています。ここから、最近の事例から見えてきた主な要因について考えてみたいと思います。