もしも会社の屋上に避難したいと言われたら?

前回の連載記事では、「近所づきあいが事業継続力を高める秘訣です」と紹介しました。近所の方は、地域の地形や昔の災害のことをよく知っていますから、こうした情報を対策に生かすことが重要だとお伝えしましたよね。

前回記事はこちら→ 近所づきあいが事業継続力を高める秘訣  

では、もし、ご近所の方との会話の中で「うちの父は子供の頃、この地域では何度も洪水があったと言っていたし、今年の夏、大雨が降ったら、辺り一帯は浸水するかもしれません」と言われたらどうしますか? その方の忠告を深刻に受け止め、洪水を想定して屋上に避難する計画を立てたり、サーバー類を上層階に移すなど、さまざまな対策をすることが事業継続力を高めることにつながるはずです。しかし、それだけで完結しない場合もあります。もし、このご近所の方から「もし洪水になったら、御社の屋上に地域の皆で避難させてもらえませんか?」と依頼されたらどうしますか?

会社の周辺は起伏の少ない平らな土地で、便利ではありますが、標高が低く浸水が心配される地域だとします。避難場所となり得る高台は遠く、近くに安全な避難場所もありません。ご近所さんは御社が鉄筋コンクリート造りの立派なビルなので、大雨が降っても上層階に逃げ込めればきっと命は助かると考え、こんな相談を持ち掛けてきたのです。急激に水位が上昇するような災害となった場合は、避難に時間のかかる年配の方や体の不自由な方は、命を落とす危険性が高くなります。

助けてあげたいのはやまやまだけど、いくらご近所さんとはいえ自社に関係のない人を、しかも大勢社内に入れてしまったら、セキュリティー的にも不安ですし、長期間そこに滞在してもらうことになれば、一時的に事業継続どころではなくなるかもしれません。それを、自社とご近所の担当者だけで話を進め、約束するとなると、かなり勇気がいると思います。

もしかしたらどんどん要求が膨らんで、その場合の備蓄品などまでも受け入れ側が一方的に負担させられるようなこともあるかもしれませんし、下手に断れば、地域での評判が悪くなる危険性もあるかもしれません。それに、もし受け入れを表明したら、避難したいというご近所さんは、かなりの数に上ることも想定されます。


困ったら役場の防災担当窓口に相談!

そんなとき、ぜひ利用していただきたいのが地区防災計画制度です。
地区防災計画制度を使えば、行政や専門家の視点で第三者的なアドバイスをもらいながら、より良い避難の方法や、お互いの助け合い方についてルール作りを行い、出来上がったルールを行政にも共有しておくことができます。このルールは、行政文書の地域防災計画にも位置づけられることから、公的な側面も大きく、企業としての地域貢献にもつながります。第三者的なアドバイスを受けながら取り組むことで、自社の災害対策を見直すきっかけにもなりますし、メリットは大きいはずです。

どうすれば、この制度を使えるのでしょう?

まずは事業所が所在する市区町村役場の防災担当窓口にご相談してください。そして、「地区防災計画制度というものが利用できると聞いたことがあります。どのようにすればよいですか?」とぜひ聞いてみてください。
きっと、いい取り組み方法や事例を教えてくれたり、詳しく相談できる専門家を紹介してくれると思います。
もし、具体的なアドバイスが得られないまでも、確実に、過去の災害履歴や現在想定されている災害の規模などを記したハザードマップなどの情報はもらえるでしょう。すぐに屋上を避難場所として提供すると決められなくても、住民の方と一緒に対策を考える材料にはなるはずです。その中で本当に会社の屋上が最も適した避難場所なのか、どこまでを会社が行い、どこまでを住民が行うのかといった議論ができるようになります。