日本社会の弱点「慣性の法則」とは(イメージ:写真AC)

緊急対処の事後検証が改善を生み出す

コロナ禍において数多くのルール、ガイドラインがつくり出された。緊急事態がゆえ、十分に議論を尽くし、十分に検討した結果であるとはけっしていえない。それはある意味、仕方がないだろう。

理想論をいえば、あらゆる危機事態を事前に想定し、その対処や発動すべきルールを徹底的に議論したうえで準備しておくべきだが、すべてをカバーすることは事実上不可能であり、想定外の事態は防げない。リスクマネジメント視点でいえば、想定外はリスク受容の範疇に入るが、とはいえ看過できない状況に追い込まれ、受容などできず、緊急で暫定的な対処が必要になることは少なくない。したがって、繰り返しになるが、事後検証は極めて重要になる。

事後検証のポイントは(イメージ:写真AC)

事後検証のポイントは、事前の想定が十分であったか、何が足りなかったかという観点と、危機事態に直面して行った数々の判断・対処に科学的合理性があるかという観点である。この両面が必要であり、その結果、どういう改善、是正が必要になるのかを議論し、実効策につなげていくことだ。

しかし残念ながら、コロナ禍ほどの大きな危機事態に対して、この事後検証が行われているとはお世辞にもいえない。日本社会の弱点の一つといえる「慣性の法則」が原因と考えている。

物事をなかなか始められないが、いったん始めると今度はなかなか止めることができない(イメージ:写真AC)

つまり、何事も始めるにあたっては、石橋をたたき、さまざまな言い訳をし、とにかく一歩前に出ることを躊躇し、膨大なエネルギーを要する。さらに悪いのが、一旦動き始めるとその動きを止め、変えようとすることに極めて慎重になり、責任を取りたくない意識からなのか、よくないと本音では認識しながら、誰もそこに手を付けようとせず、見て見ぬ振りで継続させてしまう。問題提起をして変化を起こそうとするのは、始める以上のエネルギーを要するのだ。

これを、日本社会の「慣性の法則」と批判している。

この構造は官僚化した政治が変革しない限り打破できないだろうが、民主主義において変革を促すのは民意である。そして、たとえ政治が舵を切らなくとも、企業経営としてはこの状況に安住していてはならないだろう。自己防衛は必要不可欠だ。

組織としての企業も社会を構成する一部(イメージ:写真AC)

さらにいえば、企業の活動そのものが民主主義を動かす大きな力になることは疑いようがない事実である。一個人だけでなく組織としての企業に、それだけの責任があることになる。個々の利権や部分最適の自己都合ではなく、社会を構成する一部としての責任意識がいままで以上に重要になっている。

そう考えると「慣性の法則」は企業にも巣くう病理であり、その問題に対峙し、経営課題として相当なエネルギーをかけるべきだと考えるのである。