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社会と自然との関係の変化

18世紀後半に勃発した産業革命によって、石炭を燃料とする蒸気機関の技術や繊維製品などの工業生産が発展する中で、農業が第一線から退き、製造業が経済の前面に出てきた。製造業の発展は、富を生み出す資本と労働の重要性を一躍高める結果となった。その過程で、自然を原材料の供給源とみなすようになった。

近代工業化を経て、多くの財物を遠隔地に大量に運ぶようになった。一方、安定して大量に産出される地域が限られる化石燃料、石油が主要なエネルギーとして注目されるようになった。また、石油から作る合成樹脂などの製造物が、物質循環と生態系の中でほとんど分解されない物質として拡大していった。現在、地球上で人間活動と物質循環や生態系との間に持続関係が保たれている地域は激減している。

日本においても、かつて高度経済成長時代に、住宅地の開発、高速道路やダムの建設、ゴルフ場、スキー場、リゾート施設などの様々な開発事業が進められた。これらの事業によって消滅した森林や湿地の面積は膨大となっている。また河川を含む自然の縦断、横断方向の環境の連続性が失われたため、生育、生息地(ハビタット)の破壊や分断、孤立化が生じ、動植物が消滅した。

社会と自然との関係の見直しの動き

世界各地で、近代以降に自動車交通を優先して作られた都市を見直す動きがある。パブリックスペースの研究家であるヤン・ゲールが提唱した「人間のための街」という概念を取り入れた北欧のパブリックスペースでは、人々が集い、憩い、遊び、語らい、自然と触れ合うといった行為をパブリックスペースで体験するための街づくりが進められている。

ハーヴァード大学の生物学者E・O・ウィルソンは、2016年の著書『ハーフ・アース(Half-Earth) 』の中で、生命の本格的な第六の大量絶滅を防ぐために地球の半分を再自然化することを主張している。例えば、地球上に存在するあらゆる種の3分の2は自然林に生息しており、森林の維持は、大量絶滅を防ぐ上で不可欠だといわれている。