2021/06/01
気象予報の観点から見た防災のポイント
伊那谷豪雨―6月の気象災害―
おわりに
限られた資料に基づき、伊那谷豪雨の実態を垣間見た。当時、もし、気象衛星があったなら、この現象がどのように見えたであろうか。
熱帯じょう乱の北東象限は、大雨の起こりやすい場所である。日本の南海上に台風などの熱帯じょう乱がある時、その北東象限で大雨となった事例は数多い。1998年の那須豪雨、2000年の東海豪雨などもそうである。それらについては、いずれ本連載でとりあげる機会があるかもしれない。このタイプの大雨は、台風ばかりに目を向けていると警戒がおろそかになりやすいので、注意が必要である。
1961年の伊那谷豪雨は、梅雨期にそれが起こった。南海上の熱帯じょう乱があまり強くなく、いくつかに分散していて、とらえどころがないように見えるが、熱帯の水蒸気を日本列島に供給する役割という意味では、熱帯じょう乱は必ずしも強いものである必要はない。発達した台風は周囲の水蒸気を中心の周りに引き寄せるが、あまり強くない熱帯じょう乱は水蒸気を中心の周りに引き寄せる力が強くなく、かえって大量の水蒸気を低緯度から招き寄せて、じょう乱の北東象限に送り込む働きをする。そのへんのメカニズムについても、機会があれば解説してみたい。
「昭和36年梅雨前線豪雨」による全国の雨量は600億トン以上で、それは琵琶湖の水量の約5倍、日本全国の年間雨量の約10分の1と言われる。なかでも伊那谷豪雨は数100年に一度の大雨と言われるが、同程度の豪雨が今後数100年は起こらないという保証はない。いや、条件さえ整えばいつでも起こり得る、第2の「伊那谷豪雨」への備えは、できているだろうか。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方