伊那谷豪雨の降り方

伊那谷の中央に位置する飯田市において、豪雨の期間中に観測された1時間降水量と積算降水量の経過を、図4に示す。

画像を拡大 図4. 長野県飯田市における降水量の経過(1966年6月26~28日)(単位mm)。棒グラフは1時間降水量(左目盛り)、折れ線グラフは積算降水量(右目盛り)

飯田では、6月26日にも50ミリメートルほどの降水があったが、降雨が本格化したのは27日朝からである。27日7時から1時間降水量10ミリメートル前後やや強い降雨強度となった後、昼頃から急激に強くなって、13時には36ミリメートルの1時間降水量を記録した。その後も、強弱を繰り返しながら降り続き、27日15時には前日(26日)からの積算降水量が200ミリメートルを超え、22時には300ミリメートルを超え、さらに28日4時には400ミリメートルを突破し、28日朝になってようやく弱まった。28日夜にはまた強雨があった。

こうして、結局、飯田における3日間(26~28日)の総降水量は、457ミリメートルに達した。28日9時までの24時間降水量325.3ミリメートルは、飯田における日降水量(当時の降水量統計は9時日界)の極値(歴代1位)となっており、その後60年間破られていない。歴代2位の記録は1940(昭和15)年6月に記録した210.7ミリメートルであり、1位の値の3分の2にも満たず、伊那谷豪雨で記録した極値がいかに突出したものであるかが分かる。ちなみに、降水量統計の日界にこだわらず、任意の24時間の降水量を調べると、28日5時までの24時間に354.4ミリメートルを記録しており、これも飯田における24時間降水量の極値となっている。

図5に、長野県内の6月27日の日降水量(28日9時までの24時間降水量)の分布を示す。伊那谷の中心域は日降水量300ミリメートルを超え、恵那山では400ミリメートルを超えている。この膨大な量の雨水が、わずか1日で伊那谷に降り注いだのである。伊那谷は、東に標高3000メートル級の赤石山脈(南アルプス)、西に標高2000メートル近い木曽山脈(中央アルプス)がそびえ、その中央やや西寄りを一級河川天竜川が北から南へ向かって流れている。東西を山脈に挟まれた伊那谷に降った雨水は、すべて天竜川に集まる。伊那谷豪雨の雨量は、防災インフラとしての天竜川が安全に流下処理できる水量をはるかに超え、この地域の災害耐性をはるかに上回るものであった。

画像を拡大 図5. 長野県内の日降水量(1961年6月27日9時~28日9時)。背景は国土地理院電子国土Webの陰影起伏図