出典:首相官邸ホームページ

2020(令和2)年12月16日の夕刻、新潟県内の関越自動車道上り線の数カ所において、自動車が雪のため動けなくなる事態が発生。以後、立ち往生する車が続出し、同日深夜には湯沢インターチェンジ付近の上下線で渋滞が発生した。その後も立ち往生する車が増え続け、17日午前にはNEXCO東日本が上り線を通行止めにしたが時すでに遅く、17日昼頃には上下線合わせて1100台ほどの車両が高速道路上に滞留していた。17日午後には新潟県が自衛隊に災害派遣を要請したが、除雪・救出作業が追いつかず、道路全体が麻痺状態となった。車両の滞留区間の長さは、上り線で最長15キロメートル、下り線では16.5キロメートルに達し、滞留に巻き込まれて立ち往生した車両は2000台以上にのぼった。すべての車両の退避が完了したのは18日深夜である。今回は、このような大規模交通障害を引き起こした気象について調べてみる。

寒波

まず、図1に示す12時間ごとの地上天気図によって、一連の気象経過を概観する。2020年12月12日、南北に並ぶ幾つかの低気圧からなる気圧の谷が日本付近を通過したが、すぐには季節風が強まらなかった。このような時は、上空の気圧の谷が日本の西側に残っており、もう一度低気圧が日本付近に現れてからでないと強い寒気が入って来ない。13日9時の天気図で黄海に現れた低気圧が、13日21時には日本海へ進み、14日9時には日本の東へ進んだ。こうして日本付近は、おもむろに冬型の気圧配置に移行し、日本列島に寒気が侵入し始めた。その後の寒気流入は強烈かつ持続的で、冬型の気圧配置は17日まで続いた。18日になって、ようやく気圧の谷が日本列島にさしかかり、日本海から東北地方を横切る低気圧が見られた。しかし、この気圧の谷は浅いもので、冬型の気圧配置を解消させるには至っていない。翌日にはまた冬型の気圧配置が明瞭になりそうである。

画像を拡大 図1. 2020年12月12日~18日の地上天気図(各日9時と21時、気象庁による)

こうした経過を、能登半島の輪島上空の気温で確認する。輪島には気象庁の高層気象観測所があり、1日2回、測器をつけた気球を飛揚させて、上空の気象を測定している。図2には、2020年12月の、輪島における850ヘクトパスカル(高度約1500メートル)と500ヘクトパスカル(高度約5500メートル)の気温の経過を示した。この図では、平年値より低温の部分に水色の網かけを施している。ただし、平年値は当時使用していたもの(1981年~2010年の観測値に基づく)でなく、現在のもの(1991年~2020年の観測値に基づく)を用いた。

画像を拡大 図2. 輪島上空(850hPaと500hPa)における2020年12月の気温経過。平年より低い部分を水色網掛けで示す。ただし、平年値は1991~2020年の観測値に基づく現在のものを使用

図2によれば、2020年12月の輪島上空850ヘクトパスカルの気温は、13日までほぼ平年並みであったが、14日から低温となり、18日に一旦緩んだものの、その後また低温になり、結局21日まで1週間以上にわたって低温期間が持続した。500ヘクトパスカル気温で見ると、12日まではむしろ平年より高かったが、13日以降は850ヘクトパスカルで見るより低温が顕著で、22日まで10日間にわたって低温が続いた。

このように、冬期に数日またはそれ以上の期間にわたって持続する低温は、寒波(かんぱ)と呼ばれる。気象庁は、「主として冬期に、広い地域に2~3日、またはそれ以上にわたって顕著な気温の低下をもたらすような寒気が到来すること」と寒波を定義している。輪島上空の気温で見ると、2020年12月には、本州中部は13日頃から1週間ないし10日間にわたって寒波に襲われた、あるいは2つの寒波が連続した、と言うことができる。

Tモード

次に、気象衛星画像を図3に示す。寒気が本格的に入り始めた12月14日から3日間、いずれも正午の可視画像を並べたが、15日の画像を拡大し、レーダーエコーと等圧線を重ねて表示している。どの日の画像も、日本海は筋状の雲列で埋め尽くされている。ただし、14日正午の画像では、北陸地方や東北地方に、気圧の谷に伴う層状の雲がかぶさっている。

画像を拡大 図3. 2020年12月14日、15日、16日の気象衛星可視画像(いずれも正午)。15日の画像を拡大し、レーダーエコーと等圧線を重ねて表示している

日本海の筋状雲は一様ではい。観察眼の優れた読者は、筋の走向が場所によって異なっていることに気づくであろう。拡大表示した15日の画像に着眼点を記入した。日本海の北半分と、朝鮮半島寄りの領域では風向に沿って北西から南東の走向に筋状雲が並んでいるのに対し、日本海の北西部から本州に向けて末広がりの三角領域では、筋の走向が風に直交しているように見える。前者の領域における筋状雲の走向はLモード(Longitudinal mode)と呼ばれる。平行モードという意味である。これに対し、後者の領域の雲列の走向はTモード(Transvers mode)と呼ばれる。直交モードという意味である。

冬の季節風が卓越する時、日本海の筋状雲の走向にこのような違いが見られることは、気象衛星「ひまわり」による観測が開始された当初から注目された。Lモードの雲列は風向に沿っているので理解しやすいが、Tモードの雲列がなぜ現れるのか、直感的には不思議に思われた。しかも、Tモードの雲列は大雪の際に現れることが多いのである。研究者たちが調べた結果、Tモードの領域では、風向が高さによって異なっており、地上では北西風でも、雲頂付近では西風や西南西の風になっていることが分かった。雲列は、地上風と上空の風とのベクトル差の走向に並ぶのである。

図3を見て分かるように、Tモード領域の南西縁には発達した対流雲が連なっている。これは、本連載で2022年12月に解説したJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)の雲列にほかならない。JPCZは朝鮮半島北部の山塊(長白山脈)によって気流に乱れが生じ、それに端を発した不連続線が対岸の本州に向かって延々とのび、その線上で気流が収束して強い上昇気流が生じることによって形成・維持されるものである。JPCZ上に発達した積乱雲の上部は、雲頂付近の風に流され、JPCZの北東側にたなびくように広がる。その雲粒(氷晶)が、下方の海上に発生した対流雲に種のようにばらまかれ、雲を発達させる。この結果、JPCZの北東側では、対流雲がTモードの形に整列することになる。

胃袋型気圧配置

ここまで、2020年12月の寒波を広域的に観察した。ここから先は、もう少し的を絞って観察する。図3において、15日の画像には、レーダーエコーを重ねて表示し、また大規模交通障害の発生した新潟県湯沢(アメダス観測所)の位置を記入した。湯沢は新潟県南部の山間部に位置する。この図を見ると、湯沢で降っている雪は、JPCZの雲帯とは直接の関係がなさそうである。また、Tモードの雲列が新潟県にまで押し寄せていることが確認でき、レーダーエコーも波状的に並んでいるが、湯沢を含む新潟県の内陸部ではTモードの特徴がはっきりせず、強度を増したエコーがべったりと広がっている。これは何を意味するか。

図3の15日の画像には、等圧線が黄色で2ヘクトパスカルごとに表示されている。この等圧線は、数値モデルによって客観的に描かれたものであり、線がぎくしゃくして不自然なところもあるが、気圧分布の大勢はこれで理解することができる。東日本では、脊梁山脈の風上側が気圧の尾根、風下側が気圧の谷になっていて、脊梁山脈のところで等圧線の間隔が狭くなっている。これは、季節風が脊梁山脈を乗り越えて吹いているために、地形の影響で気圧場が変形した結果である。気圧の尾根になっている新潟県の内陸部では、地形の影響で降水強度が強まり、降雪雲のレーダーエコーが張り付いたまま解消しない。湯沢は、海上から侵入してきた降雪雲がかかっているのではなく、地形の影響で強い降雪雲が形成される場所にあたっていて、その降雪雲に覆われ続けているように見える。

視野を少し西へ移すと、日本海の等圧線は、JPCZと、その南西側の発達したLモードの雲バンドのところが気圧の谷になっていて西方へ変位し、一方、近畿地方あたりが気圧の尾根になって東へ張り出している。この結果、前述の東日本にかかる等圧線の特徴と相まって、1010ヘクトパスカルと1020ヘクトパスカルの等圧線の間隔は東北地方から山陰沖のところで広く、関東地方から近畿地方のところで狭い。この等圧線の配置の形状に着目して、これを「胃袋型気圧配置」と名づけた人がいる(本田、2020)。津軽海峡西方あたりが胃袋の入口、秋田沖から山陰沖にかけてが胃袋本体で、本州中部が胃袋の出口にあたるというわけだ。15日の気圧分布は、胃の入口のくびれと胃袋の膨らみが不十分で、胃袋の形には見えないかもしれない。この形状が明瞭になると、山形県から新潟県にかけての平野部で降雪が強まることがある。