2020/04/23
危機管理担当者として学ぶべき新型コロナウイルス感染症対策
I:実践
次はいよいよ実行段階の“I”(Implement)だ。ここではまず一番最初にインシデント・マネジメント・システムを実行することになる。米国では2001年9月11日の全米同時多発テロ事件以後、緊急業務を行う関係機関は共通言語の使用と共通の指揮体制を確立する必要があるとの判断を下し、HSPD-5(国家安全保障 大統領令)で連邦省や機関にNIMS(National Incident Management System: 国家事態管理システム)の採用を正式に採用するよう通達し、各州、部族、および地方行政毎に連邦準備援助(助成金、契約、その他の活動を通じ)を求めるよう定めた。
NIMS-ICS(インシデント・コマンド・システム:Incident Command System)(国家事態管理システム―現場指揮システム)とは、数時間で措置可能な小隊規模単位での事故事案から、複数の機関と多くの支援部隊が介入する数日から数週間に及ぶ複雑で大規模な災害事案まで、あらゆる規模の災害に対応できるよう設計されている。もちろん今回の新型コロナウイルスという“B”災害においてもだ(しかし今回のコロナ問題では、当初アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が統合指揮体制に組み込まれていなかったため、初動が遅れたとの話も聞いている)。
NIMS-ICSでは、現場から基礎を構築するので、あらゆる施設や組織が応用できる構造になっているため、全災害対応型(オールハザード対応)の基本的な実践のための概念である。その仕組みにより、NIMS-ICSは事態のニーズに合わせて、その対応組織も小規模から大規模まで、柔軟に縮小または拡大することが可能になる(モジュラー型組織編成の原則など、危機対応における14の原則が定められている)。
話を戻すと、実行段階においてはまずインシデント・マネジメント・システムを実行し、関係各機関と情報を共有し必要な援助を要請する。また今回は特に“B”災害の観点から、医療施設における適切なゾーニングや動線管理を実施し2次感染(クロス・コンタミネーション)を回避する方策を徹底して医療崩壊を防ぐことに重点を置く必要がある。エビデンスとしては、NFPA®473、危険物・大量破壊兵器災害に対応する医療従事者の能力適正基準およびNFPA®472、危険物・大量破壊兵器災害対応要員の能力適正基準を参照することをお勧めする。
補足だが、NFPA472®では、特殊災害発生時(CBRNE災害)には、「ICSを活用した組織編成で対応しなければならない」ということが明記されている。
上記に述べた「インシデント・マネジメント・システムを具体的にどのように実践すればよいのか」について、筆者の親友である日本医師会総合政策研究機構客員研究員兼所長アドバイザーの秋冨慎司先生が提言している「Covid-19対策で緊急支援すべき22項目(Emergency Support Function:ESF22」を紹介する。
ESF 2 重要インフラ(電気、ガス、上下水道、通信等)支援(Infrastructure)
ESF 3 応急対応(Emergency Response)
ESF 4 救急搬送支援(Ambulance)
ESF 5 地方自治体行政のための緊急事態管理支援(Emergency Management)
ESF 6 感染者支援(Mass Care, Housing, and Human Services)
ESF 7 資源管理支援(Resources Support)
ESF 8 公衆衛生・医療支援(Public Health and Medical Services)
ESF 9 教育および要援護者(虐待児、障がい者等)支援(Education)
ESF10 経営・金融支援(Administration and Finance)
ESF11 農業・漁業等 天然資源支援(Agriculture,Fishery and Natural Resources)
ESF12 エネルギー支援(Energy)
ESF13 治安維持・警備支援(Public Safety and Security)
ESF14 長期的雇用支援(Long-term Community Recovery and Employment)
ESF15 広報支援(External Affairs)
ESF16 ボランティア・義援金・寄付調整支援(Volunteers & Donations)
ESF17 ペット・家畜支援(Animal Care)
ESF18 研究支援(Research)
ESF19 サイバーセキュリティおよびICT技術支援(Cyber Security and ICT)
ESF20 国際連携支援(International Security)
ESF21 隔離支援(Isolation)
ESF22 ご遺族・ご遺体対応支援(Mortuary Support)
上記に分類した22の項目に対し、それぞれの専門家を任命し、各部門長の指揮下で、オールジャパン体制でそれぞれのESF対応チームを編成し、計画立案、そして実行のための調整を行うための総合的な「危機管理調整センター(Crisis Management and Coordination Center:CMACC シーマック)」を官民協働で設置することが本来の望ましい姿であると、筆者も秋冨先生の提言に強く同意している。
E:評価
さて最後に“E”、Evaluation評価段階があるが、実はこれは最初の“A”分析段階からすでに始まっている。つまりこの「評価段階」はリスクコミュニケーションも含め、全てのフェーズで繰り返し実施しなければならないプロセスということになる。分析は正しかったのか? 対策立案計画の見直しは必要ないか? 実行に移したアクションは効果的で沈静に向かっているのか?などを俯瞰的かつ連続的に評価しなければならないのだ。
最近の報道では、救急隊員や医療関係者に多くの感染者が発生しているとの報告を見る。次回は現場の最前線で活動しなければならない方たちのために「個人用保護具(PPE: Personnel Protective Equipment)」について解説する。
危機管理担当者として学ぶべき新型コロナウイルス感染症対策の他の記事
- クラスターを最小限に抑えるゾーニング・マネジメント
- 個人用保護具(PPE)は武器である
- パンデミックの被害を最小限に留める
- 心の非常スイッチをONにせよ
- 検証し、将来に備えろ
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方