(イメージ:アフロ)

先週の連載第1弾では、後半「B災害の指標と兆候」について解説し、それらの共通点を述べた。今回の連載で解説すること(心の非常スイッチをONにする)は、消防士向けの訓練でも、一般市民向けの研修でも共通して筆者が強調している点である。

バイアスがもたらす初動対応の遅れ

厄介なことに人は誰しも例外なく各種の「バイアス」と呼ばれる心のメカニズムを持っている。その中の一つに「正常性バイアス」というものがあるが、それを説明するには9.11全米同時多発テロ事件の時に世界貿易センターの中にいた生存者の心理状態を分析するのが分かりやすいと思う。

アメリカン航空ボーイング767が時速784キロメートルでビルに衝突し、4つのフロアが一瞬で消え失せたのだから、当然その衝撃は小さなものではなかったと想像できる。しかし後に生存者を調査して分かったことは、階下への避難行動を取るまでに平均6分かかり、40%が脱出する前に私物をまとめたり電話をしたりコンピューター作業をしていたということが分かった(犠牲になられた方々の証言を加えることが可能だとしたら、上記の数字はもっと悪くなるだろう)。

このことからも推察できるように、人間の心理として、非常時には「まさかこんなことが起こるわけない」と捉えたり、目の前で起きていることは「これは現実ではなくバーチャルではないか」と考えてしまう傾向のため、認知バイアス(偏見による認識のゆがみ)が働いてしまう。つまり正常性バイアスに陥ると、人は現実を受け入れられない状態になり、思い込みによって頭が「これは、非常事態である!」という認識に切り替わらないということだ。  

今回も、コロナウイルス感染症という危機事態が今まさに現在進行中で発生しているにもかかわらず「自分には関係ないから外出しても、夜の街に繰り出しても大丈夫」と思っている人が少なからずいるのではないだろうか。