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先週の連載第3弾目では最後に現場最前線で活動する医療従事者や救急隊員などへの感染例が報告されているという話をした。また現在、医療現場で圧倒的に不足(枯渇)している個人用保護具(以後PPEと呼ぶ)の問題を憂慮して、今回は基本に立ち戻り、PPEの基礎知識について解説しようと思う。

先日、筆者の尊敬する日本大学危機管理学部の河本志朗教授に、リスク対策.com主催「日本の危機管理への提言・新型コロナウイルス感染拡大への対応」と題した緊急座談会でご一緒する機会に恵まれた。その席上で河本教授は「医療用具というのは、“器具でなく武器”である。アメリカの安全保障専門家は9.11後、日本に対して『日米安保があるからと言って、CBRNEが起こったときにアメリカをあてにしないでくれ』と言った。それがまさに今起こっている。マスクは武器と同じように考えないといけない。安全保障に関わるものは、コストを度外視しても自国で作らなければいけない」と発言をされたのがとても印象的だった。

やはり、平時からの準備や戦略物資としての政策的なマインドセットがいかに重要であるかと思い知らされる。竹やりで鉄砲に立ち向かっていくような現象が、今まさに新型コロナウイルス感染症対策の現場で起きているのではないだろうか。医療現場でのPPEの枯渇に関しては、新型コロナウイルス感染症AARでしっかりと検証しなければならない事項だ。

救急活動用防護服

PPEの種類は多岐にわたりさまざまなものがあるが、始めに医療援助を提供する対応者を感染体液や空気中の病原体の曝露から保護するためのPPEの解説から始める。

救急活動用のPPEは、使い捨て、または複数回使用するものもあり、使い捨てのPPEは、患者と接触した後に廃棄される。複数回使用するPPEは廃棄するまで、規定回数の洗浄および再使用することができる。米国規格ではNFPA®1999(※全米防火協会:National Fire Protection Association―1896年設立の非営利団体で人命を火災やその他あらゆる危機から守るための規格「コンセンサス・スタンダード」を300以上有する)の「救急業務のための防護服の規格」に適合してなければならない。その規格には下記のアイテムが含まれている。

●ユーティリティー(多目的)グローブ:患者の看護のためには使用されないが、体液、消毒剤、洗浄溶液に対するバリアとしての機能を果たす
●サージカルグローブ:患者の看護用に認証され、(感染に対して)手首までの効果的なバリアを提供する
●目および顔の保護具:目や顔に対して限定的な保護を提供するフェイスシールド、ゴグル、保護メガネ、またはフード付きバイザー
●全面形面体:目、顔、鼻、口を保護するフルフェイス形状の面体
●シューズカバ─: 体液に対して限定的なバリアを提供する、履物の上から着用する使い捨てのアイテム
●医療用衣服:体液に対してのバリアを提供する、使い捨て、または複数回使用する衣服。ユニフォームの上から着用することのできる、袖、ジャケット、ズボン、ガウン、カバーオールなどがある
●医療用ヘルメット:危険エリアでの患者対応中における、衝撃、貫通、電気絶縁の保護を提供するように設計された頭部保護具。ヘルメットは、タイプ1の安全帽ANSI規格要件(※米国国家規格協会:American National Standard Institute~アメリカ工業分野の標準化組織でさまざまな規格開発を担っている団体)を満たしていなければならない
●呼吸用保護具:空気中の病原体から装着者を保護するフィルター式マスク

今回の新型コロナウイルス感染症のようなCBRNE災害へ対応する人員(医療従事者や救急隊員、その他)は現場での任務を果たすために、自分自身の身を守るために適切なPPEを装着しなければならない。あらゆるPPEの組み合わせ(アンサンブル)が、皮膚、目、顔、聴覚、手、足、身体、頭、呼吸器をあらゆる危険因子から防護するのだが、残念ながら全ての危険物質やウイルスに対して万能なPPEは存在しない。重要なのは対応者自身が、通常の作業服では化学物質や感染性物質に対して限定的な防護にしかならないということを理解することである。化学防護服(CPC)と呼吸用保護具の組み合わせ (アンサンブル)が、危険物質の曝露による侵入経路を保護することになるかもしれないが、決して万能なわけではないということだ。

弊社で発刊している「危険物・テロ災害初動対応ガイドブック(ERG2016)」は、オレンジページ中の防護服に関するセクションの中で、特定の危険物質に対する適切なPPEのガイドラインを提供している(感染性物質に対しては指針番号158にその記載があるので、参照していただききたい)。

空気中の病原体(Airborne Pathogens)

厚生労働省の発表によると、「空気感染は起きていないと考えられるが、閉鎖した空間・近距離での多人数の会話等には注意が必要だ」との記載があるので、空気中の病原体についての基礎知識についてあえて触れてみる。

空気中の病原体とは、空気中に浮遊する、疾患を引き起こす微生物(ウイルス、細菌、または真菌)のことである。医療対応、救助および復旧活動、またはテロ攻撃に際して犠牲者と接触するときに暴露することがある。これらは、吸入または直接の接触(連載1弾目:人体への4つの侵入・感染(曝露)経路参照https://www.risktaisaku.com/articles/-/28853)をした後に感染を引き起こす。空気中の病原体への曝露から生じ得る疾病には以下のものがある。 

◦髄膜炎 
◦インフルエンザ 
◦メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 
◦肺炎 
◦結核(TB) 
◦重症急性呼吸器症候群(SARS) 
◦麻疹 
◦水痘 
◦天然痘

空気中の病原体に対する防護には、高効率(HEPA)フィルター、防じんマスク(APR)/電動 ファン付き呼吸用保護具(PAPR)、および自給式空気呼吸器(SCBA)/送気マスク(SAR)がある。

HEPA防じんマスクとは、アメリカ国立労働安全衛生研究所(以下、NIOSHと記載)の認定を受けているN95、N99または N100に指定されている使い捨てマスクである(最近ではN95マスクの品不足から再利用するための衛生指針が研究されているが)。それぞれの名称は、マスクにより効果的に除去される浮遊粒子の割合を示している。また、サージカル・マスクは空気中の病原体に対する防御が認められていないことに注意しなければならない(あくまでも第三者にうつさないためのもので、感染から自分を守るためのものではない)。ただし、呼気、くしゃみまたはせきによって起きる飛沫感染を防ぐために、サージカル・マスクを患者に使用することは可能である。