2020/02/14
ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために
動物の行動を理解する
けがをした動物を火災現場で治療する場合、動物は自分が助けられていることを分かっていない場合があります。一見親しみやすそうな動物でさえ、脅されていると感じたり、負傷していたりするときには、自分の身を守ろうとします。動物は想定外の行動を取ることがあります。
犬や猫の定番の防御反応はかむことなので、負傷した動物をコントロールできていると思っているときでも警戒して対応してください。 動物は、穏やかでやや高いピッチの声(つまり、赤ちゃんの話し声)に最もよく反応します。 この方法で信頼を得るようにします。
負傷した動物を治療する際には、動物を運ぶ必要がある場合もあるでしょう。その際、動物だけでなくあなた自身の安全を保つためにも注意を払う必要があります。中型および大型犬は、両腕を使って持ち上げてください。片方の腕は犬の前足の周りに、もう一方の腕は後ろ足の周りに置いてください。犬をすくい上げ、抱え込んで運びます。
小型犬や猫は持ち上げて、救助隊の腕にしっかりと収まるように抱きかかえます。折り曲げた腕の中に動物の足をそっと包みこむようにすれば、動物がもがいたり飛び跳ねたりする心配がなくなります。猫を持ち上げるときにかまれたりひっかかれたりする恐れがある場合は、片手で猫の首をつかんで、もう一方の手を使って持ち上げるのが安全な方法です。
犬にかまれるのを防ぐためには、仮の口輪を使用すると良いでしょう。全ての救急隊は包帯を豊富に持っているので、犬の口の周りに口が開かない程度に軽く巻き付けることでかまれるリスクを軽減することができます。ただし、犬の鼻腔を締め付け過ぎて窒息させないように気をつけてください。
法的考慮事項
米国ではほとんどの場合、各々の判断によって救急隊員は、負傷した動物を治療するかどうか選択できます。ただし、考慮すべき法的な問題があります。第一に、全ての州が明確に救急医療に携わる消防隊員に動物の治療を許可しているわけではありません。救急医療に携わる消防隊員として任務に当たる場合、われわれの活動は救急医療の範囲に制限されます。
こうした制限から逸脱して負傷した動物を治療するとなると、それは獣医学の専門分野になってしまいます。幸いなことに一部の州では、救急医療に携わる消防隊員が動物に緊急治療を行うことを許可しています。実際、最近オハイオ州で制定された法律(R.C.Sec 4765.52)では、救急医療に携わる消防隊員が同法に定められている治療を行うことを具体的に許可しています。
治療を行っても良いのかという問題を別の側面からみると、動物は個人の財産と見なされる点が指摘できます。従って負傷した動物が住宅火災の現場で発見された場合、財産は守るべきものであることから、動物を治療するということに対しては住宅所有者との間には暗黙の了解があると考えて差し支えないと思います。
※日本の場合は、動物愛護法第2条(基本原則)「動物は命あるもの」としている。
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/laws/nt_r010619_39_5.pdf
弁護士であり、ペンシルベニア州チェスター郡のバーウィン消防隊の救命士・消防士でもあるマシュー・S・ヴァロッチ(Matthew S. Valocchi)氏は、法的な観点から次のようなことを述べています。
「法廷において緊急事態でのペット治療に関する訴訟は今までほとんどありませんでした。州の特定の法律を理解し、これらの法律に基づいた現場における方針を念頭においておくことが重要です。最終的には、あらゆる行動が法的な影響をもたらす可能性があります。しかし、州は、緊急事態においてペットを助けるために正しい判断を下している救急救命士を守る必要があることを認識し始めています」(注7)
ペットへの対応も意識する
火災現場において救急医療に携わる消防隊員が第一に優先すべきことは、人の命を守ることですが、負傷したペットに遭遇する可能性は常にあります。各州が、救急医療に携わる消防隊員が負傷した犬や猫の生命にプラスの変化をもたらす可能性があることを認識し始めている中、こういった状況において救急医療に携わる消防隊員はどのような判断を下すべきか考えていく必要があります。犬と猫は飼い主に愛されており、人と同じように家族の一員であると考えるべきです。あなたの臨床スキルと専門知識によって瀕死のペットの命を救うことができるような場合には、このことを大いに考慮すべきでしょう。
(注)
1. 避難所と保護:ペット統計(2016.)米国動物虐待防止協会. 2016年9月5日閲覧
www.aspca.org/animal-homelessness/shelter-intake-and-surrender/pet-statistics
2. Leary J. (9月4, 2016, 9月4).
電話インタビュー
3. Drobatz K.(2016年8月31日).
個人的なインタビュー
4. “The association of physical examination abnormalities and carboxyhemoglobin concentrations in 21 dogs trapped in a kennel fire,” 「犬舎火災で閉じ込められた21匹の犬における身体検査異常と一酸化炭素ヘモグロビン濃度の関連」,
Ashbaugh EA, Mazzaferro EM, McKiernan BC他,
The Journal of Veterinary Emergency and Critical Care, 2012;22(3):361–367.
5. “Smoke exposure in dogs: 27 cases (198801997),” 「犬の煙暴露:27例(1988-1997)」, Drobatz KJ, Walker LM, Hendricks JC共著,
Journal of the American Veterinary Medical Association, 1999;215(9):1306-1311.
6. 犬、猫の心肺蘇生のための新しいガイドライン(2012年7月3日)
アメリカ獣医医師会. 2016年9月5日閲覧www.avma.org/news/javmanews/pages/120715g.aspx
7. Valocchi M. (2016年9月10日)
電子メールのインタビュー
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