火災に遭ったペットの診察

犬や猫は回復力が強いですが、住宅火災によって多くの犬や猫がけがをしたり、死亡したりしています。米国の住宅火災で毎年4万匹のペットが死亡し、約50万匹のペットがこれらの惨事で被害にあっていると考えられます(注3)。

ペンシルベニア大学ライアン動物病院のクリティカルケア部門のチーフおよび緊急サービスのディレクターを務める獣医師(DVM)であり臨床疫学修士(MSCE)でもあるケネス・ドロバッツ(Kenneth Drobatz)氏は、救急外来において建物火災の被害に遭った多くの動物を見てきました。彼は、主な死因は家具や内装材、塗装ペイントが燃えたときに発生する煙(有毒ガスや一酸化炭素)の吸入であると報告しています(注3)。

犬の気道は煙や熱にさらされると、人の気道と同じ様な症状が出ます。荒いせきが出て、気道内腔が腫れて浮腫になることがあります。

一方、猫の気道は喉頭痙攣(けいれん)や気管支痙攣の影響をはるかに受けやすいです。建物火災から助け出された犬や猫にとって、迅速で継続した酸素供給は必須でしょう。

燃焼の際の主な副産物は一酸化炭素(CO)ガスです。一酸化炭素のヘモグロビンとの親和性は酸素の200倍で、一酸化炭素はヘモグロビン(血液中に見られる赤血球の中に存在するタンパク質)と結合している酸素に置き換わり、その結果、細胞低酸素症および最終的には脳損傷をもたらす可能性があります。

この傷害が起こらないようにする唯一の方法は、一酸化炭素濃度の濃い環境から動物を救出し、酸素吸入を行うことです。

一酸化炭素ヘモグロビンの測定は犬や猫に対して通例行われるわけではありませんが、一酸化炭素への暴露は、飼い主から十分な病歴を収集し、臨床徴候と症状を評価することによって確認することができます。

犬舎火災で煙を吸い込んだ21匹の犬の研究が、この臨床実践を裏付けています。この研究は、「一酸化炭素ヘモグロビンレベルが一貫して症状の重症度と相関するかどうかの決定には、さらなる評価が必要だ」ということを示しました(注4)。一酸化炭素中毒(さらにシアン化物中毒)の犬と猫は、真っ赤な粘液膜を呈することがあります。灌流状態を確かめるために歯茎を診察する際には、このことに注意してください。

やけども、火災に遭った動物によく見られます。ドロバッツ氏は、救急外来において住宅火災で重度のやけどを負った犬や猫を見ることはまれであると報告しています。多くの場合、体の小範囲あるいは中範囲にやけどを負っているか、全身にやけどを負い火事が消し止められた後に遺体となって発見されるかのどちらかです。

犬や猫は通常、ひげ、顔、気道にやけどを負った状態で見つかります。特に犬や猫の皮膚に焼き付いた毛や毛皮は、合併症を引き起こす要因となっています。毛の焼き付きよって病院でのデブリードマン(創傷清拭)が非常に難しくなります。

さらに犬と猫に一貫して見られる症状は、足の裏のやけどです。人間の患者は一般的に靴を履いているため、消防隊員は犬や猫の足の裏のやけどを見落としてしまうことがあります。

もし、動物の足の裏にやけどがある場合は、歩かせないようにしてください。大きな痛みを伴い、感染性物質が動物の体内に入る可能性が高くなります。

また、犬や猫のひげや口の周りが焦げていることを発見した場合は、気道熱傷の疑いがあるので、水を与えないようにしましょう。水を与えることで、気道内部の浮腫が増し、気道をブロックしてしまうこともあるからです。