□解説:カスタマーハラスメント対策の法制度

接客業や介護業、運輸・鉄道サービス業などに従事する労働スタッフに大きなストレスを与えている消費者からの「悪質クレーム」や「暴言・暴力」といった迷惑行為が大きな社会問題になっています。去る10月23日、毎日新聞は「顧客や取引先からのクレームによる精神障害が仕事に起因したとして、厚生労働省が労災認定した人が過去10年間で78人に上り、うち24人が自殺していたことが判明した」と報道しました。

流通業やサービス業などが加盟する日本最大の産業別労働組合である「UAゼンセン」が2017年と18年に実施した調査によると、カスタマーハラスメント(カスハラ)の現場を目撃したことがあると言った人の割合は全体の約78.9%に及び、またカスハラに該当する迷惑行為が増えていると感じる人は全体の約49.9%になるという結果も出ています。

2019年5月に成立した「パワハラ防止法」では、取引先の相手企業による悪質なクレームも職場でのパワハラと類似性があり、ハラスメントに値するものであるとして、カスタマーハラスメントとして認定。専門の相談窓口を設けたり、被害を受けた従業員の希望に応じて配置転換するなどの対策を取ることが可能になりました。また、厚生労働省では、カスタマーハラスメント対策として、個別の労使のみならず業種や職種別の経済団体や、経済産業省、消費者庁、中小企業庁などと連携して、2019年度内をめどに企業向けの「指針=ガイドライン」を作ることも決定しました。

一方、カスタマーハラスメントに該当する悪質なクレームと、正当なクレームの線引きは実質上難しいともいわれています。悪質クレームの明確な判断基準が明確に整備されていないのがその理由です。そこで上記UAゼンセンでは独自の悪質クレームの定義を以下のように定め、企業はその対処法を明記した対応マニュアルを整備するよう勧めています。

「悪質クレームとは、社会常識を大きく超える迷惑な要求者による要求であり、その要求内容または要求態度が社会通念に照らして著しく不相当であるものをいう」