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多くの企業がかつてない苦境に立たされています。原材料費やガソリン価格の高騰に加え、物流コストの上昇が経営を圧迫し、利益を確保することがますます困難になってきています。ただそれに負けじと、DX化や新規顧客の獲得で対抗している企業があります。今回はその取り組みを紹介します。

■事例:深刻化するコスト高騰

地方の町工場「A精工」は、創業50年の歴史を持つ金属加工業者です。祖父の代から続くA精工は、確かな技術力で取引先の信頼を得てきました。現在の社長も父の跡を継ぎ、工場を守り続けてきました。

しかし、近年の物価高騰が経営を直撃しています。原材料費、燃料費、物流コスなど、何もかもが値上ってます。A精工の取引先である大手メーカーは、政府が方針を出したいわゆる「転嫁パッケージ」を受け、コストの上昇分を取引価格に反映してくれてはいるものの、昨今の物価高騰はそれをはるかに上回るものです。

メーカーにその旨を申し出ると「申し訳ありませんが、先日の価格交渉時の金額でお願いしたい。こちらも厳しいので」との回答されました。長年の取引先である担当者は申し訳なさそうに、しかし、毅然と言い切ったのでした。社長は受け入れるしかありません。大手メーカーとの取引を失えば、工場の存続が危うくなるからです。

コスト上昇分を価格に反映できれば、それが一番の解決策だとわかっています。しかし、大手メーカーの都合を無視して値上げを要求すれば、他の業者に仕事が流れてしまうことは容易に想像できます。競争は熾烈で、価格だけで切り替えられることも珍しくありません。長年築いてきた信頼関係があるとはいえ、現実は非情です。

設備投資によるエネルギー効率の向上も、対策の1つとして考えてはいました。最新の省エネ機械を導入できれば、電力消費を抑え、コスト削減につながります。しかし、それには莫大な資金が必要になります。現状では銀行からの追加融資も簡単ではない状況です。

A精工は、現場でできる製造コストの削減は全てやってきたつもりです。材料の無駄を減らし、生産工程を見直し、歩留まりを向上させるための試行錯誤を続けてきました。社員たちにも協力を求め、アイデアを募りました。しかし、すべてやりつくした感がありました。

このままでは、資金繰りに窮するのも時間の問題のようです。支払いを遅らせるわけにも、従業員の給料を削るわけにもいきません。銀行の融資条件は厳しくなるばかりで新たな借り入れも現実的ではありません。

社長は、昼間は気丈に振る舞っていますが、夜になると不安が膨れ上がります。帳簿を見れば見るほど、状況は厳しくなる一方です。とはいえ、工場を簡単に畳むわけにはいきません。祖父の代から続く会社であり、多くの社員の生活がかかっています。彼らの家族のことを思えば、安易な決断はできないのです。

「自分にできることはまだあるだろうか?」

答えの見えないまま、夜が更けていくのでした。