感染する動物は限定されている

ASFウイルスは豚やイノシシなどのイノシシ科動物のみに自然感染します。豚やヨーロッパイノシシは高い感受性を示しますが、本来の宿主と考えられるアフリカのイボイノシシは、ウイルスに感染しても症状を発現しません。牛や馬、その他家畜へASFウイルスが感染したという報告はありません。本ウイルスは、人には感染しません。

ウイルスの感染様式

養豚場でのASFウイルスの感染は、主として豚同士の直接的または間接的な接触によって起こります。口や鼻からウイルスが侵入することで感染が成立します。野生イノシシの場合、水浴びや泥浴びをする水場が感染拡大の温床になっています。短い距離での飛沫感染もあるようです。

ウイルスに感染した動物は、感染後4~5日から唾液や鼻汁中に大量のウイルスを排せつするようになり、その後ふん便中にも排せつします。一方、本来の宿主と考えられているイボイノシシでは、唾液や鼻汁中へのウイルス排せつは少なく、イボイノシシ間あるいはイボイノシシと豚との間での接触によるウイルス感染は成立せず、ダニを介してウイルスは初めて伝播(でんぱ)します。

ASFウイルスの環境での生存能力は非常に強いのが大きな特徴です。ASFに罹患(りかん)して死亡した豚の血液や、各種の臓器ならびに筋肉内で3~6カ月間感染力を維持します。ウイルスは冷凍された豚肉内で110日間以上、生ハム中で140日間以上、また、薫製や塩漬けのハムなど加工豚肉の中でも300日間以上感染性を失わないという報告があります。東欧においては、野外に廃棄された死亡豚や病死した野生のイノシシが感染源の一つになっていると考えられています。ASFウイルスは、発病豚の血液中に大量に含まれるため、解剖の際には周辺環境へウイルス汚染を起こす恐れが生じます。

ASFウイルス感染豚に血便の排出や鼻血が認められる場合には、同居豚へも容易に感染します。糞便中のウイルスは室温で数日間生存するため消毒が不十分な器具や車両等を介しても容易に拡散します。

ASFウイルスを媒介するダニはヒメダニで、フタトゲチマダニなどのマダニ類は媒介しません。このヒメダニにおいて、ウイルスは卵を介しての世代を超えての垂直感染(介卵感染)と、成虫間での交尾による水平感染が起きます。アフリカでは、ウイルスを保有するダニが豚から吸血した時に、豚にウイルスが感染します。一般的には、ダニを介してウイルスに感染した豚は、経口あるいは経鼻感染した豚よりも、より早期に重篤な症状を示して死亡するようです。

近年発生しているロシアや東欧では、ウイルスを媒介するダニが生息しない地域であることが注目されます。一方、スペインでの発生では、イベリア半島に生息するダニが介在者として感染に関与したことが報告されています。