国内で実施されている防疫対策

家畜伝染病予防法で、最も重要度の高い家畜の疾病である家畜伝染病(いわゆる家畜の法定伝染病)に指定されている豚コレラの防疫作業は、農林水産省が定めた「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」と、農林水産省消費・安全局長通知である「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針に基づく発生予防及びまん延防止措置の実施に当たっての留意事項について」により行われています。すなわち、豚コレラ発生時の防疫体制の構築・実施や緊急時におけるワクチン使用などによる防疫措置の確立が基本方針になっていますが、想定外の事態が生じた場合に必要となる防疫対応の強化についても視野に入れられています。
防疫の基本は、言うまでもなく、病原体、感受性宿主、感染経路の感染病発生の成立に必須な3因子の排除に他ならないのですが、豚コレラウイルスが国内から消滅して久しかった日本国内では、豚コレラワクチン接種は実施されませんでした。

しかし、現実には、2019年9月末日現在、国内の豚コレラウイルス汚染は明らかに拡大しており、多くの府県の養豚場で豚コレラは発生しています。同時に、豚コレラウイルス感染源として考えられているイノシシでのウイルス感染も拡大しています。すなわち、早期の豚コレラ撲滅が、現実には非常に難しいことが明らかになってきました。

ここにきて、日本国内の養豚業界は「緊急時」に陥っていると農林水産省は判断しました。養豚場での豚コレラワクチン接種が始まります。実は、すでに、豚コレラワクチンウイルスを混入した餌をイノシシの生息地に置き、イノシシがその餌を食べることによりワクチンウイルスに感染させて、イノシシに免疫能を獲得させる経口投与法による、イノシシへのワクチン接種は始まっています。この種類のワクチン接種法は、すでに、台湾で、野生動物に狂犬病が流行した2005年ごろに実施されています(その効果についての詳細な報告に筆者は接していませんが)。

一方、農林水産省動物検疫所では、2018年9月以降豚コレラの発生した県で生産された豚、豚肉などの輸出停止措置をすでに取っています。また、発生のあった養豚場には、補償をはじめ経営面も含めたさまざまな支援策が講じられています。