今、日本国内での発生が拡大を続け、社会問題になりつつある豚コレラは、発熱を伴う敗血症性の、豚とイノシシが罹患(りかん)する高い死亡率を伴うウイルス性感染病です。豚コレラは、国際的に最も警戒を要する疾病の一つに指定されており、日本の家畜伝染病予防法でも、最も重要度の高い家畜伝染病(いわゆる家畜の法定伝染病)に指定されています。飼育されている豚が豚コレラと診断された場合、その養豚場の飼育豚全て殺処分、養豚場の徹底的な消毒、発生養豚場を中心に半径3キロの移動制限が義務付けられています。
病原体の豚コレラウイルスは人には感染しませんが、私たちの食生活に大きな影響を及ぼす、社会性の高い疾病です。
豚コレラの概要
病原体の豚コレラウイルスは、強い伝播力と病原性を特徴とするウイルスです。豚コレラの病態は、急性から慢性まで多様ですが、いずれの場合も予後は不良で、罹患豚は死の転機をたどります。これまで世界の養豚業界に莫大(ばくだい)な損害を与えてきた、現在でも恐れられている豚の感染病の一つです。近代養豚の歴史は、豚コレラとの闘いであったとさえ言われています。
本病は、19世紀初頭にアメリカで、世界で最初の発生が報告されていますが、その後、世界に発生が広がり、地球規模で大きな損害を与えてきました。そのため、畜産王国であるアメリカ、ヨーロッパでは、国家的な豚コレラ清浄化計画が立案、実施されました。成果は上がり、豚コレラの発生している国の数は減少しましたが、東欧、ロシア、アフリカ、中南米やほとんどのアジア諸国では依然として発生が続いています。
日本では1888年、アメリカから北海道に輸入された豚に最初の豚コレラが発生しました。その後豚コレラは全国に広がり、国内養豚業界は長年豚コレラによる大きな被害に苦しみ続け、豚コレラ防疫対策の改善に大きな努力が払われました。
その結果、1969年に農林省家畜衛生試験場(当時)の熊谷哲夫博士、清水悠紀臣博士の研究グループにより、効力と安全性に勝れた、画期的なGPE-(マイナス)生ワクチンが開発されました。この生ワクチンが国内で広く使用されたことにより、豚コレラの発生は激減して、1992年の熊本県での発生を最後に国内での発生は皆無となりました。日本国内から豚コレラウイルスは消滅したと判断され、現在では、豚コレラワクチン接種は廃止されています(当連載の「国内でも起こりうる『狂犬病』」を参照してください)。この豚コレラウイルスフリーの状態は2018年9月初めまで続きました。
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