2016/07/25
誌面情報 vol56
Q9. ICS の導入は国内であまり進んでいないと聞きますが?
本格的に導入しているところはほとんどないでしょう。大手石油会社が少しずつその必要性を理解されはじめ、訓練を積み重ねている状況です。海上災害防止センターでも、災害への対応に備えて年に1 度、関係企業の担当者等を集めてICSの基本的な教育と訓練を実施しています。
また、T カードを使ったリソースの管理についても、数社で導入されはじめていますが、会社をまたいだ協力体制をつくりあげるのはまだ難しいのが現状です。ご理解いただけるように働きかけている最中です。
Q10. 日本の危機管理に望むことは?
やはり災害イマジネーションをしっかり高めていくことです。火災を例にしてもイマジネーションがしっかりしていれば、まず火災を起こさないようにするのはもちろんですが、万が一発生した場合に備えて初期対応を充実させようとする意識が出てくるでしょう。このあたりの危機意識はイマジネーションの有・無で全く変わります。ここから危機管理はスタートします。よく心・技・体と言いますが、日本は技も体制も整っていないのに「心」だけで対応しようとします。これは間違いで、非常に危険です。
また、現場で対応する人たちを含め危機管理の専門家なら、本来、まずは災害の現状を「知ろうと」するはずです。事実の把握に時間をかけて目や耳を傾ける。石油コンビナートの火災なら周囲に配管がどう張り巡らされているか、次にどんな現象が起こるのか。現場で対応する者の命がかかっているのですから、それくらい初動に労力をかけなくてはなりません。私は講演や研修などでいつも話すのが、「現場の指揮者は自分の判断1つで人を殺すんだ」ということです。その立場・責任を忘れないでほしい。そのためにも「プロこそ素人(知ろうと)であれ」ということです。
日本の危機管理は受動的対応が中心です。知識と経験を積めば先を読んだ戦術が可能になります。普段から先を見込した対応の準備を心がけてほしいと思います。
萩原貴浩(はぎはら・たかひろ)
1962年生まれ。海上保安庁入庁、海上保安学校教官、海上保安庁警備救難部海上防災課等の勤務を経て、1995年から海上災害防止センター防災訓練所教官、主任教官を歴任し、2002年から海上災害防止センター防災部勤務。この間、米国テキサス農工大学にて武者修行、「流出油防除コース」「上級船舶火災コース」「上級産業施設火災コース」等を修了。これまで、危険物タンカー乗組員、石油コンビナート企業防災職員をはじめ、消防庁、海上保安官や外国人政府職員等約1万数千名の研修修了生を送り出す。2011年の東日本大震災により発生した「コスモ石油ガスタンク火災消火・流出油事故」など、国内外の大規模事故対応にあたってきた実績を持つ。
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