2016/07/25
誌面情報 vol56
Q3. なぜ災害イマジネーションを高めることができないのでしょうか?
事故の発生を前提としていないからの一言に尽きます。だから、事故の発生を想定した本来の教育、訓練がなされていない。例えば、専門的な話になりますが、原油タンクで大規模な火災が起きたら、風上から放水してタンク冷却する方法が一般的には良いと考えられています。ところが、放水でタンク表面を冷却するとタンクの内外面の温度差が激しくなるため、タンクの鉄板が大きく伸縮してぐにゃぐにゃになる「座屈」という現象が起きるのです。つまりこれは、局所的な放水が間違いなのです。
また、タンクの大規模な爆発に「ボイルオーバー」という現象があります。これは、タンク内の底に溜まった水が加熱され急激に膨張して起こる水蒸気爆発ですが、世界中で1 年に1 回ほど起きています。少し前までは、公設の消防士すら、これらの爆発を前提とした教育を受けていませんでした。だから、石油コンビナートで火災が起きてもボイルオーバーが発生する可能性すら考えられなかったわけです。今はやっと常識になりましたが。
Q4. 日本の文化や国民性も背景にあるように思います。
相手への間違った「思いやり・配慮」があるからではないでしょうか。
例えば、ある企業で事故が起きた場合、隣の企業が協力を申し出ることは控える。また、複数の企業が連携、協力するような場合にあっては、一緒に取り組みながら気づいた点があってもアドバイスは控える。このように相手のためになるものであっても、これらはすべて、その協力やアドバイスを受けたほうの企業が「恥」をかかないように配慮してしまうし、実際にアドバイスを受けたほうも「ありがとう」という気持ちより「恥」と考えてしまうからです。もう1つは、先ほども話しましたが、日本では事故が起こることを前提とせず、事故を起こさなければ問題ないという意識が高いからです。これについては、メタノールという危険物を例に説明しましょう。
日本ではメタノールの安全基準は、1 日8 時間、週40時間労働したときに健康被害を起こさない濃度として200ppmという基準だけが定められています。しかし実際の輸送中に横転事故を起こしたらどう対応しますか。メタノールには可燃性がありますが、5 万ppm の濃度では火はつかないものの、その環境の中に1 ~2時間いると死んでしまいます。
しかし、現実には事故が起きたときに1 時間以内に住民を避難させなければならない基準なんて何もないのです。つまり、このようなことは危険物を扱う当該事業者が考えておくべきことなのですが、事故を起こすという前提がないので基準も設定されていないのです。事故を起こさない「安全」と事故が起こってしまったときの現場の「安全」の2つの安全のうち、日本には前者の安全しか存在しないのです。
Q5. 欧米はどのような体制になっているのでしょうか?
海の世界では国際条約により、標準的なカリキュラムに沿った様々な教育・訓練を受けることが義務づけられ、一定の基準を満たさないと世界を股にかけた船舶の運航ができません。消火活動にしても世界標準があります。
また、先ほど例にあげた危険物の輸送についても、欧米では世界共通のマークを貨物コンテナに貼りつけて運搬することが決められています。ドクロや炎のデザインなど小学生でもその危険性が推測できるわかりやすさです。しかし、日本では税関を通過したあと輸送する際、このマークがはぎ取られます。国内の法律では国際基準に準拠しなければならない決まりはありません。だから、日本では陸上輸送されているものは外部から中身がわかりません。万一、事故が起きたときに内容物が何かを示すマークなのに付けずに運んでいるのです。一般人を驚かせないようにとの「誤った思いやり・配慮」なのでしょうか?国内目線の危機管理、これで良いのでしょうか?
Q6. 消防の体制はどうでしょうか?
欧米では、官民問わず消防士の能力も技能レベルに応じて「見える化」されています。これは勤続年数とは全く関係ありません。研修・実技訓練を受講し、試験を受けた上で認定されます。発生した災害に対して複数の機関(企業)が集まって協力して活動するときに、各々の消防士の実力がわからないと役割の振り分けができず、また共通の認識のもと活動ができない。個々の消防士の消火技能や現場管理能力など、できること、できないことが明らかでないと効果的な戦術を実施できません。
残念ながら日本の消防士は、自治体によって使う教科書や用語がバラバラです。例えば、行方不明者を示す隠語も自治体で異なります。だから連携に不安が残ります。もちろん、見える化といっても統一した基準のもとに集約できないと現実的な協力体制にはなりません。
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