リーダーシップが求められる

図1は組織のレジリエンスに関して重要な因子のトップ3は何かを尋ねた結果である。1位に「事業継続、危機におけるリーダーシップとマネジメント」、2位に「強力なリーダーシップ」が挙げられている。なお図は省略するが、組織のレジリエンスの基礎として重要な機能を 5 つ挙げろという問いに対しても、「事業継続」と「危機におけるリーダーシップとマネジメント」が同率首位となっている。

回答者の多くがBCM関係者であることから、「事業継続」が上位に現れるのは当然と言えるが、全体的にリーダーシップが非常に重視されているのが興味深い。

写真を拡大 図1.設問「組織のレジリエンスに関して最も重要な因子は何か?」に対する回答結果(出典:BCI / Organizational Resilience)

筆者の個人的な意見としては、過度にリーダーシップに依存しすぎるのもいかがなものかと思う。例えば「Effective communications and knowledge sharing」という項目については、コミュニケーションと知識の共有をそれぞれ別項目として扱うべきだ(と思われるくらい重要である)し、「Positive culture」(ポジティブな文化)や「Effective partnership and relationships」(効果的なパートナーシップと関係性)などがもっと重視されてもいいのではないかと思われるが、読者の皆様はどのように感じられるであろうか?

これに関連して図2では、従業員のリーダーシップを開発するためにどのような施策が実施されているかを尋ねている。回答として最も多いのは「独自の開発プログラム」(26.3%)(注3)、次いで「状況認識トレーニング」(23.7%)、「メンター制度」(18.4%)となっている。

写真を拡大 図2.従業員のリーダーシップを開発するために実施されている施策(出典:BCI / Organizational Resilience)

本報告書では、図1の結果などから多くの組織でリーダーシップが重要だと認識されているにも関わらず、リーダーシップを開発するための取り組みが不十分であることが指摘されており、特に「管理職向けのコーチング・プログラム」を実施している組織が7.9%しかないことが疑問視されている。リーダーシップが重要であると認識されていながら、レジリエンスを支えるリーダーシップをどのように育成していけばいいのか、模索している組織が多いのかも知れない。

本稿ではグラフを中心に説明しやすい部分をピックアップして紹介させていただいたが、本報告書では他にも組織文化や事後対応のしかた、レジリエンスに寄与する環境整備など、様々な観点からのアンケート調査結果とそれらの分析結果が示されている。最近は組織のレジリエンスに関して多様なレポートが様々な組織から発表されているが、それらの中で本報告書はBCM関係者が今どのように考えているのかが概観できるユニークな資料となっている。

■報告書本文の入手先(PDF48ページ/約1.9MB)
https://www.thebci.org/resource/organizational-resilience--perspectives-from-the-industry.html

注1)BCIとはThe Business Continuity Instituteの略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、イギリスを本拠地として、世界100カ国以上に9000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/

注2)設問においては、組織のレジリエンスに関する国際規格である『ISO 22316:2017 Security and resilience — Organizational resilience — Principles and attributes』において、組織のレジリエンス(organizational resilience)が次のように定義されていることを紹介した上で、回答者の考えを尋ねている。

ability of an organization to absorb and adapt in a changing environment
(変化する環境において、(その環境からの影響を)緩和し、(環境の変化に)適応する、組織としての能力)

注3)おそらく何らかの研修プログラムが開発されているものと思われるが、本報告書からはその内容は分からない

(了)