常識破りの計画

専修大学教授の大矢根淳氏

「大槌町安渡地区の津波防災計画は、消防団員などによる避難支援を15分間に制限したほか、渋滞の原因になり避難を妨げるマイカーの導入を条件付きで認めるなど、計画策定に至るまでの議論の経緯を知らない人が見たら驚くような内容になっているのでは」(大矢根氏)。

安渡地区津波防災計画には、家庭で避難計画を考えることや、住民や町内会の声かけのほか、教育や語り部による伝承などの啓発活動を促進するなど、「想定外」を克服するための事前の取り組みが明記された。住民自ら率先して避難しながら、周囲に声をかけ巻き込みながら避難する。また、要援護者の避難のために一定条件で車の利用を認めた。通常、避難時には車の利用は認められないが、高齢者や要援護者を避難させるには車は不可欠だ。対象者を「徒歩避難が難しい要援護者」に限定するなど、自動車の利用に関するルールを地域で協議することを盛り込んだという。

家族だけで対応できない寝たきりになっている高齢者の避難には、背負って運べなくとも玄関までふとんを引っ張るなどで移動させ、消防団員などが搬送する自助と公助の役割を明確にした例も記されている。そして「こすばる老人」の避難を手助けする時間は発災から15分という制限をつけてみることで支援者の被害を防ぐようにした(※ただし、「15分ルール」は議論の過程で出てきた特徴的な言葉であり、訓練などで活用しているものの、まだ議論の途上で「決定項目」ではない。実際に災害が発生した時には、15分で要援護者の支援を打ち切るということには、少なからずの人が抵抗・躊躇も感じていることも事実だという)。人の救助やモノをとるために低地に戻ることも町内会で抑止するようにと盛り込まれた。ほかにも、避難所の1つであった旧安渡小学校では収容能力の8倍である約800人が集まり混乱したことから、避難所の利用方針や組織体制、優先業務などについてルールを定めた。

町との関係が改善

このように地区独自に防災計画の策定に取り組み、課題を洗い出すことで、大槌町に対して具体的な改善点を要望できるようになった。例えば、安渡地区からの要望で町が管理、保持していた公民館の鍵を安渡町内会が受け取り共同で管理できるようになった。避難時に女性専用のスペースを確保できるように設計された新しい公民館は2016年度にオープンする予定だ。また、避難時に渋滞を発生させないように、交通規制についても大槌町と話し合えるようになった。

今年の3月2日には安渡地区防災計画の検証のため、安渡町内会と大槌町が合同防災訓練を行った。震災後のはじめて大規模な訓練で、150人の安渡地区の住民を含め約200人が参加した。要援護者はリヤカーや車に乗せて移動させた。「こすばる」老人には支援者が説得にあたった。東日本大震災の浸水域を越える津波も想定し、一度避難した校庭から階段を上ってより高い地点まで逃げる再避難も行った。手すりがないため、多くの高齢者が階段を上れず滞留する様子がみられた。

防災計画の検証、改善は今後も進めていく方針だ。「安渡町内会防災計画づくり検討会」の取り組みは今年の6月までに17回を数えた。