特別対談 
室﨑益輝氏 神戸大学名誉教授
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西澤雅道氏 内閣府(防災担当)普及啓発連携担当参事官室総括補佐

行政区域に関わりなく、集落や商店街、自治会など地区単位で居住者と事業者が自発的に防災活動に関する計画を策定し、防災活動に取り組む「地区防災計画制度」が2014年4月に施行された。従来の行政主導のトップダウン型防災から、地域住民自らが考え行動するボトムアップ型防災へと大きな変革が迫られている。2014年6月に発足した地区防災計画学会会長の室﨑益輝氏(神戸大学名誉教授)と、会長代理で同制度の政策立案を行った西澤雅道氏(内閣府(防災担当)普及啓発・連携担当参事官室総括補佐:2014年9月当時)に制度創設の背景と学会の役割を聞いた。  

 

街はモナカのように皮とアンコが重要

地区防災計画制度ができた経緯について教えてください。

西澤:私が地区防災計画の政策立案をするに当たっては、室﨑先生のお話や論文を随分参考にさせていただきました。2005年ぐらいのことだったと思いますが、先生は既に論文の中でコミュニティレベルでの防災計画の必要性について御提言されていたと思います。私は、内閣府のボランティア関係のイベントなどでも、地域コミュニティの防災力のあり方について先生からお話をうかがう機会もございまして、この地区防災計画を制度化する必要性を強く感じておりました。まず、室﨑先生から、なぜ以前からこうした問題に着目されていたのか、御説明いただければと思います。

室﨑:日本の防災は、もともと行政主導の形で行われてきました。行政が責任を持つという意味では良いことでもあったのですが、阪神・淡路大震災や東日本大震災を経験して、行政だけでは国民の命が守れないことが明確になり、自助や共助のようにコミュニティレベルのサポートが不可欠であることがはっきりしたことが根底にあります。住民自身に地域を安全にしていくエネルギーがなければ防災はうまくいきません。

国や自治体がつくる防災計画に、ボランティアや自主防災組織の力が必要と書き込んでみても、計画そのものは行政が勝手に作っているわけですから、ある意味トップダウンでボランティアなどの役割まで決めてしまっていることになります。こうした現実と自助・共助の理想がかい離していたように思うのです。

これを解決するには、行政と住民が一緒になって防災計画を作るか、あるいは、行政と住民が別々に計画を作り、両計画を突き合わせて連携できるようにコーディネートしていくしかないと思いました。住民やボランティアが主人公と言うからには、主人公自らが防災に関わっていく仕組みが必要になります。

一方、実態面では、高齢者など要援護者の避難誘導計画などを作る場合、それを我がこととして考えられるのは行政ではなく、地域住民であって、自らが地域に即した計画を作るということが非常に大きな意味を持ってきます。防災だけでなく、違法駐車や違法建築、ゴミ出しのルール、危険なブロック塀などの問題も同じです。それらは、行政ではなく、地域コミュニティの問題であり、地域住民が自分たちでお互いに注意してコントロールしていくことが求められているわけです。

私が日頃言っているのがお菓子のモナカの理論で、街は「皮とアンコ」でできているということです。皮は、大きな公共建築物や幹線道路、ダムなどで、自治体がしっかりやっていくべきことです。アンコは、自分の家の前をきれいにするとか、そこに住んでいるコミュニティを賑やかにするなど住民の主体的な活動です。アンコが美味しければ、皮はうすくていいかもしれませんが、残念ながら、多くの街がそうなっているようには思えません。アンコの部分は、住民でなければできないことです。防災に置き換えれば、行政が個人の家に入っていって、家具の転倒防止を強引に指導することはできない。でも、住民が隣近所で声を掛け合っていけば、家具の転倒防止も理解してやってもらえるかもしれない。アンコの部分を自ら良くしていかないと日本の社会全体は良くなりません。それを、どういう形で動かしていくか。行政が指示するのではなく、住民自らが考え、気づき、さらに皆で決めるという合意形成までのプロセスが非常に重要になるのです。このプロセス・プランニングをすることが防災計画です。こうした活動を通じて地域が強くなっていくのです。その際、「地区防災計画」こののような制度がとても重要になると思います。