2019/07/10
アマゾンの強さの秘密は「安全」にあり
顧客=安全
なぜそれほどまでにアマゾンでは安全が重視されているのでしょうか?
スピードを求めれば、多少なりとも危険なオペレーションを許容しなければならない状況が起き得ます。一般的に物流現場は危険と隣り合わせで、多くの事故が発生し、時には死亡事故につながるような大きな事故が起きることもあります。あれだけの巨大なオペレーションを年中無休で行うアマゾンですから、作業員が納期を間に合わせるためにバタバタと走ったりという姿が想像されると思います。
しかしアマゾンのオペレーションは、それをご覧になった多くの方が同様の感想を持たれるように、「非常に落ち着いていて整然としている」のです。そこでは、走る社員も危険な行動を取る作業員も見かけられず、全てが粛々と安全に進んでいます。なぜそのような現場が作ることができているのでしょうか? それはアマゾンの企業理念にも通ずる「Always customers first(常に顧客中心)」という考え方と「Always safety first(常に安全第一)」が同意語として認識されているからだと考えられます。
会議の順番はSPACER(S:安全、P:目的、A:議題、C:行動規範、E:評価、R:役割)
現在のコンシューマビジネス(インターネット通販などの物販に係る事業)のCEOであるJeff Wilke(ジェフ・ウィルケ)がオペレーション部門のヴァイスプレジデントとして採用されたときに、最初に強調したことはSafety、安全でした。その当時オペレーション部門の会議は「PACER」という仕組みで運営されていました。これは「P=Purpose(目的)、A=Agenda(議題)、C=Code of Conduct(行動規範)、E=Evaluate(評価)、R=Roles(役割)」というものが常に確認されていましたが、最初のミーティングでジェフは「SPACER」にしようと提案したそうです。その頭のSこそが「S=Safety(安全)」だったのです。それ以降20年以上オペレーション部門ではどのような会議でもまずは安全から話し合われます。何か安全上の問題がなかったか、安全上注意すべき点はないかなどさまざまです。
大きなコストをかけても安全を最優先
Jeffは以前、上級社員向けのリーダーシップ研修で、自身の最も苦しかった経験として、昔、化学会社の工場長をしていたときに起こった死亡事故の話をしてくれたことがあります。もちろん安全に関しておざなりになるような現場ではなかったわけですが、いくつかの偶然が重なって水蒸気爆発が起き、1人の作業員が命を落としたというものでした。当然ながらJeffはその責任を全て背負い、全プロセスの安全対策の見直しを陣頭指揮したとの話でしたが、やはり自分のミスで命を落とした社員が出たということは、彼の生涯の中で大きな心の傷となったようです。それ以降、全てにおいて安全は優先され、たとえそこで多くのコスト的な犠牲が伴おうと妥協はしなくなったということです。ただし、そこでJeffが言っているのは、短期的には大きなコストをかけなければならなくても、長期的に見れば社員の生命を守るだけでなく、会社の信用も守ってくれる。それは後々大きな利益を生み出すものになるということです。安全というものは長期的視野に立った場合何よりも優先されるものであるとJeffは伝えています。
(了)
アマゾンの強さの秘密は「安全」にありの他の記事
- 安全を維持するための組織
- アマゾンにおける安全の仕組みづくり
- 安全を維持するために~Day 1
- 「安全は他者に対する敬意の表れである」
- アマゾンのスピードを支える安全文化
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方