■「感染症新法」制定までの道のり
明治に入り近代国家を目指した日本でも、欧米先進諸国のような科学的な感染病対策をとるための法律が必要になりました。明治 30年に法律 36号として、伝染病の発生を予防し、発生した伝染病を撲滅(ぼくめつ)することを目的とした法律「伝染病予防法」が制定されました。

この法律は改正を重ねながら平成11年3月末日まで続きましたが、後から制定された性病予防法およびエイズ予防法(後天性免疫不全症候群の予防に関する法律)などをまとめ、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」として生まれ変わりました。昭和26年に制定された結核予防法だけは平成18年に新しい法律に組み込まれました。旧来の伝染病予防法では、伝染病をその重篤性および社会に及ぼす影響性の大きさから、法定伝染病(11疾病)、指定伝染病(2疾病)、届け出伝染病(13疾病)に分類されていました。     
この法律では、各都道府県市町村に、清潔、消毒、予防処置の施行を義務付け、伝染病院の設置、予防委員、検疫委員、防疫監吏などの配置を義務付け、伝染病対策の中核を成していました。伝染病予防法などの法律は、確かに日本国内の感染症対策の進歩に大きな役割を果たしました。

しかし、伝染病拡大阻止を最優先したために、患者の人権に対する配慮に欠けた部分が少ないとはいえない欠点を有していました。特に、平成8年、腸管出血性大腸菌感染症O-157が発生した折に、患者の人権に問題が生じ、本法律が時代に即さないことが明らかになりました。そこで、平成11年4月に感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下感染症新法)が新たに施行されたのです。

感染症新法に取り上げられている感染症とその対処

感染症新法では、集団の感染症予防に重点を置いてきた伝染病予防法から、個人の予防および良質で適切な医療の積み重ねによる社会全体の感染症の予防の推進に基本方針を転換しています。 感染症新法が制定されたときには対象疾病は74 でしたが、随時追加されています。

本法では、表に示しましたが、基本的に感染症は一類から五類まで、病原体の感染力の強さや症状の重篤性あるいは社会への危険度の大きさから分類されています。

写真を拡大 感染症の予防及び感染症の患者に対する法律 ※赤字:旧伝染病予防法などで挙げられていた疾病