4.会社の寿命 〃盛者必衰の理〃
1984 年( 昭 和 59 年 )に 出版された日経ビジネス 編「会社の寿命“盛者必衰 の理” 」は当時大変話題に なりました。百年間の上位 100 社のランキングを作成した結果、 『企業が繁栄を維持できる期間、すなわち 「会社の寿命」は、平均わ ずか 30 年に過ぎない』という本です。  

同書によれば、会社の生き残り条件 5カ条は下記です。  

項目ごとに紹介されている企業名・経営者の名前とその後の企業の動向、例えば③のシャープ・オリ ンパスなどの

名前を見ると、感慨は尽きません。

 ①時代を見抜く指導力。先を見通したリーダーの鋭 い決断。昭和初期の三井財閥を改革した池田成彬・日本電気(NEC)の関本忠弘・パイロット万年筆の山浦勝郎

②社風一新、沈滞を破る。セイコー電子工業の服部 一郎・鐘渕紡績の武藤山冶・小野田セメントの大島健次

③危険を冒して活力を出す。シャープの早川徳次・ オリンパス光学工業の渡辺八太郎

④大樹に寄りかからない。東京電気の吉岡美勝・住友石炭鉱業(経営者名無し)

⑤ムダ金使いの勇気を。明治初年別子銅残山近代化のためフランス人技師ルイ・ラロックを雇った広瀬宰平・三菱金属の岩崎小弥太の鉱業研究所  

昭和 59 年現在のシャープ・オリンパス光学工業 は評価に値する企業だったと思います。その後の経 営者が方向を誤ったわけです。  

最終章の標題は『寿命を握るのは経営者』です。 この章で取り上げられている事例の経営者は下記です。  

住友金属鉱山・藤崎章、ヤマト運輸・小倉昌男、 三菱レイヨン・金澤脩三、日本オイルシール・鶴正吾、エプソン・相沢進、イビデン・多賀潤一郎。  

後講釈は付け易いものです。企業の盛衰は 30 年だとすれば、50 年後の状況は一変しています。当時の日経ビジネス編集部の評価と、その後の各企業 の推移を検証すればまた新しい見方が出て来ると思 います。  

結局 「会社の寿命を握るのは経営者」 だという結論は今も昔も変らないということを痛感致します。  

5.稲盛和夫氏の意見 
8 月 20 日の日本経済新聞電子版の記事で、稲盛和夫氏は家庭電器業界の経営者について、 「バブルで大きな痛手を被ったものだから石橋を叩いても渡りたくない、危険、リスクを冒したくないという方向へ日本全体の経営者が向いている。苦労知らずで意思決定が中途半端なトップばかり。それが今日の日本企業が抱える問題だと思う」   「今の日本の家電業界に強力なリーダーは皆無だ。 大事なのは技術や現場のわかる経営者。昔は IHI や 東芝など技術系で武骨なやんちゃな人がトップに なっていたが、今は文系で物わかりの良い人が偉く なる」   「どの会社でもトップから末端の社員の考え方を 変えれば再生できる。要するに過去の成功体験など に固執せずこれまでの考え方を破壊できる企業であ れば十分に再生可能だ。もちろん、痛みや苦痛も伴 う。日航もその成功例だと思っている」と述べてお られ、同記事の最後の《記者の目》では「デジタル 業界の再生には、命懸けで改革に挑む豪腕トップが必要とされているのだろう」と書かれています。

6.おわりに
家庭電器専業メーカーは今後いかにあるべきかということは、わが国製造業の将来を考えるについても大きな示唆を与えてくれる問題です。本来であれば、主要メーカーの 50 年間の推移について、国内 ・ 国外の生産 販売状況を製品別に追い、損益の推移、 ・ シェアを調べて今日に至った理由を明かにし、その中から今後進むべき方向を見出すべきなのですが、 リタィアの身でそこまで検討できませんでした。製造業として製造技術・品質の向上は当然ですが、国内需要に頼るだけでなく、また品質の良いものは必ず売れるとは言い難いので、世界で通用する製品を製造することが必要だったと痛感致します。  

さらに、今後進むべき方向を見出したとしても、 実際に企業を変革できるかが大問題です。 今年1月、コダックが連邦破産法 11 条の適用を申請し、かつてコダックに追いつき追い越せと懸命だった富士フィルムが頑張っているケースでは、最初にデジタルカメラを開発したコダックと富士フィルムは進むべき方向については同じことを考えていたはずで、 自社技術を生かすか、企業買収で技術を買うのか、 また社員の団結力など、改革実行のプロセスが大きく違ったのだと言われています。  

私ごときが偉そうなことは言えませんが、豪腕なトップが育たない今日のわが国の企業風土は、将来に禍根を残すと思います。  

パナソニックはじめ我が国の家庭電器メーカーが 良き経営者を得て再生することを心から願っています。