2.国外への退避が求められた事例と退避を行う際に留意すべき事項
次に、国外への退避が求められた事例として、「治安等」に関わるものと「疾病等」に関わるものを概観します。

(1)治安等の悪化を要因として、国外への退避がなされた事例
①エジプトからの退避事例

②治安の悪化等により退避を行う際に留意すべき事項
上記エジプト騒乱の【事態の推移】を念頭に置くと、次のようなことに留意しつつ、計画的に退避行動を取ることが望まれます。

退避の決断時期が遅れると、安全な出国が困難になる可能性がある。
(説明①民間機の離発着キャンセルの発生)
最初の大規模デモ(1月25日)直後から、民間機の離発着が大幅に間引きされ、出国希望者がなかなか出国できない状況が発生しました。また、日本政府によるチャーター機も全員を搭乗させるキャパシティは確保できませんでした。このことから、可能な限り早期に退避を決定し、民間航空機が通常通り運行している間に出国することを目標とすべきでしょう。

(説明②外務省の退避勧告のタイミングに依存しすぎない)
外務省が退避勧告(「滞在中の方は事情が許す限り早期の退避を検討して下さい」)を発出したのは2月1日ですが、既に日本政府によるチャーター機は出発済みでした。また、定期航空便に搭乗する場合でも、空港までの交通機関に関しては、既に警察が機能不全に陥っていたことから、安全とは言い難い状況であったと言われています。外務省からの退避勧告のみを退避判断の拠り所にした場合、安全に退避できるタイミングを逃す可能性があることに留意しましょう。

空港に長時間足止めされる可能性がある。
(説明)
搭乗予定便の間引きにより、1~2日間程度、空港に泊り込んで空席を待つ出国希望者が相当数発生しました。このような事態に備え、退避の際には携帯飲食料等を持参することが望ましいと考えます。

銀行窓口が閉鎖されたり、ATMが使用できなくなる可能性がある。
(説明)
治安悪化による店舗閉鎖やATMへの現金の供給ルートの寸断により、退避に際して必要な交通費等の現金が確保できなくなる可能性があります。治安状況の推移を見つつ、自宅等に一定程度の現金を準備しておくことが望ましいと言えるでしょう。

インターネット、SMS等が使用できなくなる可能性がある。
(説明)
デモの呼びかけが不可能となるよう、政府によりインターネットやSMS等が遮断されました(一部では携帯電話も遮断されたという情報もあります(※iv))。大規模騒乱等により退避を行う場合には、今後、通信手段が遮断される可能性があることに留意し、各種の対策(例:騒乱等の予兆があった段階で、家庭内や会社内で集合場所や集合時間等を共有しておくなど)を講じることが望ましいと考えます。

なお、インターネットが使用不可能となった場合には、在外公館から管轄地域の在留邦人(※v)に向けてメール送信される「緊急一斉通報(INSIDE:Integrated Notify Supportin Disaster&Emergency)」も着信不可能となります。この場合には、在外公館から在留邦人向けの各種指示や情報は、NHKラジオ国際放送「NHKワールド・ラジオ日本」や大使館緊急FM放送等を通じて行なわれる可能性がありますので、あらかじめ受信方法等を確認しておくことをお勧めします。

「外出禁止令」により、空港等までの移動が制限される可能性がある。
(説明)
デモ等が発生した場合、治安維持の観点から外出禁止令が敷かれる可能性があります(特に大都市部)。この場合、退避のための移動も禁止されることとなります。エジプト騒乱の場合は夜間外出禁止令が出され、午後3時~翌朝8時まで外出が禁止されました。

誤った情報が流布される可能性がある。
(説明)
独立系の放送局(本事例の場合はアルジャジーラ)は放送が視聴できなくなるとともに、政府系の放送局は政府側の意向に沿った報道を行いました。このように、国土が騒乱状態になった場合は、事実と異なる情報や世論誘導のための情報が流される可能性があります。なお、客観的な情報を得るためのメディアとしては、先述の国際放送「NHKワールド・ラジオ日本」等が挙げられます。