2016/07/03
誌面情報 vol54
日本人が巻き込まれたテロ
ここ数年における海外で邦人が巻き込まれたテロ事件を振り返ると、2013年のアルジェリアの事件では10人の方が亡くなられた。2014年には0だったが、2015年はシリアで2人、チュニジアで3人の計5人が犠牲になられた。
昨年1月にISILによって拘束された2人の日本人の映像がインターネット上に公開され、その後、殺害されたとみられるテロ事件が発生した。3月にチュニジアで博物館が襲撃された事件では日本人観光客3人が亡くなられ、3人が負傷された。これ以外にも、テロと断定されている訳ではないが、8月には、バンコクで爆破事件があり日本人1人が負傷。そして10月には、バングラデシュ北西部で在留邦人男性1人が撃たれて死亡した。本事件は引き続き捜査中だが、「ISILバングラデシュ」の組織名で犯行声明が出されている。
このほか、邦人の被害こそなかったが、11月には、パリで同時多発テロが発生し、約130人が死亡、351人が負傷。今年1月にはトルコのイスタンブールで爆弾テロが発生し、11人が死亡、14人が負傷。同じく1月にはインドネシアのジャカルタ中央部で自爆テロが発生し、8人が死亡(うち4人が犯人)、外国人観光客を含む24人が負傷する事件が発生している。
このように、最近は、一般の観光客など「ソフトターゲット」を狙ったテロが多く発生している。ISILは、日本人・日本権益を標的として言及したことがあり、注意が必要である。
テロ以外の多岐にわたるトラブル
海外における犯罪被害・トラブルはテロ以外にも多岐にわたる。2014年の在外公館が取り扱った海外邦人救護件数は合計で約1万8000件。内訳で最も多い「所在調査」を除くと、ほとんどが邦人被害事案である。その中で一番多いのが窃盗被害(4140件)、次に詐欺被害(429件)と続く。つまり、被害全体の6~7割ぐらいは窃盗や詐欺、強盗事件ということだ。また、遺失・拾得物(3323件)、傷病(754件)も多い。事故では、交通事故が多い。
加害事案もある。被拘禁者は107件ある。一番多いのが不法滞在など出入国管理関係。
次に、2014年の死亡案件を見ると、合計で522件あり、その約8割の405件が疾病だ。観光客による脳溢血や心筋梗塞によるものがほとんどである。これは、お金と時間がある高齢者が観光客として多いためであろう。もともと持病がある上、時差や、ハードスケジュールによって無理をするため、現地で亡くなられるケースが多いと思われる。第2位の死亡原因が自殺だ。約1割の47件ある。現地駐在員の自殺が中心であるが、短期出張者でも、現地到着後2週間ぐらいで自殺をしている人もいる。自殺者が一番多いのは米国。中国も多いが、仕事や従業員との関係など、ストレスが原因だろう。
退避を想定した対応のあり方
さて、外国に駐在する人が、仮に、退避するような事態に至った場合の対応ぶりについて考えると、治安が悪化してきた場合などは、駐在されている国の日本の大使館・総領事館から在留邦人に対し、注意喚起のメールが配信されてくる。おそらく企業も自社の社員らに注意を促すことになるだろうが、治安がさらに悪化すると、危険情報「退避勧告」が発出されることになる。
このような時には、在外公館では、定期商用便の運行状況を毎日のように確認しているので、在外公館に照会してもらえば、基本的にどのような運行状況かはわかる。ただし在外公館では、最適な退避ルートと手段を検討するが、国によっては1つしか手段もルートもないというケースがあることや、現地の治安状況を見つつ判断しなければならないので個別事案ごとに退避ルート等を検討することになる。
仮に、定期便が運行停止になると、残る手段は政府専用機かチャーター機を手配するか、第三国に協力依頼するしかなくなる。この場合は調整や準備に相応の時間がかかる。政府専用機の場合には、上空通過や着陸許可、駐機場所確保といったものが必要となるし、政府専用機自体が初めて飛ぶような国であれば、空港状況はどうか、グラウンド・ハンドリングはどのように手配するのかなど調整にも時間がかかる。政府専用機を受け入れるため事前に現地に乗り込む要員も必要なので、近隣諸国から航空会社の関係者を現地入りさせて調整しなければならない。さらに現地の治安状況や空港の状況も見なければいけないので最終的に便が出せるかどうかも確約はできない。もちろん、私どもも現地に行き、邦人の退避が終了するまで対応にあたるが、政府ができることには限界があることを理解した上で、定期便が運行停止になる前に安全対策を講じてほしい。
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