ディーゼルの車両ミックスが有効
では、このような燃料不足にどのような事前対策を講じればいいのか。 

繰り返しになるが、基本的には、被災後1週間はガソリンスタンドなどでは燃料を調達することができないことを前提に対策を講じるべきだ。現実的に、ガソリンは手に入らないだろうし、地域全体で燃料が不足している中で、強引に燃料を入手することは地域の反感を受けることにもつながる。 

対策としては、小嶌氏が言うように、まず平時から7日分の車両燃料を残した形で燃料を満タンにする運用を心がけることだ。これなら特に費用をかけなくても、すぐに始められる。もう1つは、ガソリン車だけではなく、軽油(ディーゼル)車を取り入れることを小嶌氏は推奨する。 

製油所や油槽所が被災すれば、ガソリンだけでなく、軽油やLPGも精製や輸送は困難な状況に陥る。しかし、軽油は平時から貯蔵などが容易な上、運搬もそれほど難しくないという点では、ガソリンより入手しやすいと考えられる。

「ガソリンスタンドに列ができても、ガソリン車と同じ列に並ぶことはないし、小型のタンクなどに入れることも容易なため自分で持ち運んでもいい」(小嶌氏)。

ただし、国内では、ガソリン車の数が圧倒的に多く、普通自動車でディーゼル車を製造しているメーカーはマツダだけだ。あとは比較的高額な外国車になる。 

マツダの資料によれば、同社が販売するクリーン・ディーゼルのデミオ(2WD、44ℓタンク)の場合、1000ℓの軽油を備蓄していたら、1日平均50㎞を走行すると仮定して、10台を40日走らせることができる(JC08モード燃26.4㎞/ℓの75%で換算)。 

課題としてはイニシャルコストが高くなること。クリーン・ディーゼル車は、同じタイプのガソリン車に比べ、車両価格が高い。ただし、ガソリン車より燃費がよく、燃料費自体が安いため、車両の運用として、普段から長距離を走ることが多いなら、イニシャルコストも回収しやすいことになる。 

一方、走行距離が短いなら、コスト的にはガソリンが有利になるが、小嶌氏は「災害に強いという意味で、コスト回収が見込めなくてもディーゼル車を保有しておく考え方は必要」と言い切る。それほどディーゼルは災害に強いということだ。

電気自動車やFCVは有効か!?
東日本大震災では、電気自動車(EV)も注目された。被災地には、多くのEVと急速充電器が賃与された。確かに、東日本大震災では、わずか4日間でほとんどの電気が回復し、その意味では電気自動車は非常に有用な手段だった。しかし、小嶌氏は、「被災地の中で動く分には機能したが、被災地の外から入るためには、距離の問題を克服しなければならない。また、急速充電器に列ができるような状況も見受けられ、震災時におけるEVの強さと同時に弱さも露呈してしまった」と振り返る。 

次世代のエコカーで注目される燃料電池自動車(FCV)についてはどうだろう。技術の進歩次第で期待されるが、現時点ではガソリンに比べコストが高い点が1つ目の課題だ。そして、水素燃料の給油には、かなりの電気を使う問題があると小嶌氏は付け加える。 

水素燃料の車に5㎏を給燃するのに、「35kW必要になってくる。つまり、FCVの給燃に使用する電気だけで、電気自動車は250㎞走れる計算になる。それならば、はじめからEVを使った方がいいのではないか」(小嶌氏)。 

小嶌氏は、特に、市役所や、警察署であれば、緊急車両の30%を目標にディーゼル車を取り入れる車両ミックスの必要性を説く。「企業でも社有車が5台あれば1台はディーゼル、10台あれば3台はディーゼル。さらに、町内会(避難所単位)でディーゼル車があれば、避難所に軽油のドラム缶を運び入れることで、多くの被災者を移送できる」とも。 

環境への負荷、力強さ(パワー)経済性、、そして何より、災害時などのセキュリティを考え、燃料の分散化と、車両を活用したBCPの姿を考えていくべきだと小嶌氏は語る。

(了)