小嶌氏らが調査した結果、ガソリンスタンドの閉鎖により、残ったガソリンスタンドへの顧客の数は平時の1.3倍から1.9倍に膨れあがった。停電により各ガソリンスタンドの営業時間が短縮され、この時短の影響で開業時の顧客数が1.8倍から1.9倍へと膨れ上がった。これに加え、ガソリンを買い求める人が通常の3.3倍~3.6倍も増え、結果的に被災地では平時の13.2倍、関東では4.6倍の顧客の集中を引き起こしたと小嶌氏は分析する。「顧客が通常の3倍を超えるとガソリンスタンドには列ができる。逆の見方をすれば3倍を切らない限りガソリンスタンドの列はなくならない」(小嶌氏)。 

ガソリンスタンドは、耐震性は高く、揺れで倒壊する危険性は少ないものの非常用発電設備などの整備はほとんど進んでいない。小嶌氏が行った調査では、非常用自家発電装置を有しているガソリンスタンドは全体の10%にしか過ぎない。 

もう1点、長期間にわたるガソリン不足を招いた理由について小嶌氏は、ガソリンの特性について、十分に理解がされていなかったことを挙げる。ガソリンの取り扱いが難しいという点だ。 

ガソリンというのは軽油や灯油に比べ引火しやすい。引火点はマイナス40度で、酷寒の状態でも、少しの火花や静電気で引火してしまう危険性があるという。それに比べ、軽油と灯油の引火点は45度、40度と高い。セルフガソリンスタンドで自動車に給油する時、静電気を除去するのはそれだけ危険ということだ。それだけに規制も厳しい。 

どのような危険が伴うのか―。小嶌氏は「例えば灯油のポリ缶にガソリンを入れて、揺らしていると帯電しやすい。ガソリン自ら静電気をためてしまい、そのスパークで引火する可能性がある。もちろん、灯油用の手動ポンプを使うことは極めて危険」と指摘する。東日本大震災では陸に打ち上げられた被災した車両から、手動ポンプでガソリンを抜き取るような行動も散見されたが、これらは極めて危険な行為だという。 

ガソリンは、通常乗用車などで運搬する場合には、22ℓ以下の金属製容器で計200ℓ未満に限定される。軽油なら250ℓ以下の金属製ドラムで計1000ℓ未満となる。貯蔵に関しては、ガソリンが40ℓに対して、軽油は200ℓ(ドラム缶1本分)まで上限が引き上げられる。さらに各自治体の条例に基づいて、適正な場所や建物を確保し、標識などを用意して事前に消防機関に届け出を行えば軽油は1000ℓまで貯蔵が可能だ。 

大量のガソリンを移送するとなればさらに困難になる。小嶌氏は、「ガソリンがあってもタンクローリーのような専用車両と危険物の知識を持っているドライバーがいなくては輸送ができない。輸送できても、専用の油槽施設がなければ保管できない。保管ができても、給油時に漏れや静電などを防ぐ専門の設備がないと出荷できない」とガソリンと取り扱いの難しさを説く。