日本政府は、この鳥インフルエンザ(H5N1)の人への感染を受け、2005年に「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定、対応を本格化させた。その後2009年、新型インフルエンザ(H1N1)がメキシコで発生した後に世界で大流行。世界保健機構(WHO)もパンデミックを宣言した。2009年のインフルエンザ対策では、日本では徹底した公衆衛生対策や医療水準の高さにより比較的小さな被害にとどまったが、国と自治体の役割分担が不明確であることや、国内発生後の水際対策は効果が限定的であること、さらにはワクチンの製造能力や摂取体制が遅れたことなど、数多くの課題を残した。特措法は、これらの反省点の上にできたものであると言える。

*レセプター…細胞表面や内部に存在し、細胞外の特定の物質(ホルモン・ウイルスなど)と特異的に結合することにより、細胞の機能に影響を与える物質の総称

元内閣官房新型インフルエンザ等対策室内閣参事官として対策ガイドラインの作成にあたった三菱総合研究所科学・安全政策研究本部レジリエンス戦略

グループ主任研究員の平川幸子氏は「特措法の特徴は、政府対策本部長(内閣総理大臣)が発令する緊急事態宣言により、対象区域の都道府県知事が、必要に応じて施設使用制限の要請を行うことができること」と話す。SARSやエボラ出血熱、鳥インフルエンザなどの感染症はその感染力や病原性に合わせ、1類から5類に分けられ、その対策が実施される(図1)。

特措法は、今後新たに発生した新型インフルエンザや新感染症に対し、その重症性や感染経路の不明確さなどを鑑み、政府が緊急事態宣言を発動するもの。緊急事態宣言が発動された地域では、知事が責任者となり、住民に対して外出自粛要請や施設の使用制限などを求めることができる。予防接種体制などについても同法によって医療従事者などの登録事業者に優先的に接種できる仕組みや、緊急時には全国民が無料で接種できる仕組みも構築されている。