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秋から冬にかけての季節、企業のBCP(事業継続計画)にとってインフルエンザなどの感染症対策は必須となる。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年9月25日号(Vol.51)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。役職なども当時のままです(2016年10月23日)

5月に韓国で流行したMERS(中東呼吸器症候群)の例を出すまでもなく、都市部の人口一極集中や交通手段の多様化などにより、感染症は報じられてからまん延するまでの時間が非常に短期間になる可能性が高く、企業の担当者としては頭の痛い問題だろう。

もちろんマニュアルや訓練などの事前準備を講じることも必須だが、感染症対策に最も大切なことは、感染源に近寄らないこと、そして従業員のみならずその家族や企業の訪問者に対しても手洗いなどの予防策を適切に、徹底的に実施してもらうことだ。編集部独自の視点で「企業の感染症対策」について考えてみた。
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■BCP担当者が最低限おさえておきたいインフルエンザ特措法

2013年4月から施行された新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)。2009年4月に発生した新型インフルエンザ(H1N1)の反省を踏まえながらも、2011年3月に発生した東日本大震災の経験から「想定外のリスク」をなくすことを目的に制定された。幸いにもこれまで国内で法律が適用された事例はないが、致死率の高いH5N1亜型鳥インフルエンザの感染件数は今も増えており、依然予断を許さない状況が続いていることは間違いない。本稿ではBCP担当者が最低限おさえておきたい特措法の概要を紹介する。

インフルエンザとは?
「インフルエンザ」とは、人間がインフルエンザウイルスに感染することによって発症する病気のこと。38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの症状が現れ、風邪と同じようにのどの痛みや鼻汁、咳などの症状をもたらす。免疫力の弱い子どもや高齢者が発症した場合、肺炎などを伴い重症化することがあり、最悪の場合、死に至ることもある。インフルエンザウイルスは大きくA型、B型、C型に分かれ、このうちパンデミックの可能性があるのはA型だ。 

20世紀の初頭、1919年には世界中で「スペイン・インフルエンザ」が発生し、当時の世界人口の約3割にあたる数億人が感染し、うち4000万人以上が死亡。日本でも40万人以上が亡くなったと伝えられる。その後も、1957年にはアジア・インフルエンザ(推定死亡者200万人)、1968年香港インフルエンザ(同100万人)と10年〜40年の間隔で、世界中で猛威を振るってきた。しかし、これらのインフルエンザは世界中で流行するとともに、多くの人が免疫を獲得するようになり、現在では季節性インフルエンザとして取り扱われるようになっている。

さて、このインフルエンザウイルスは、実はさまざまな生物の中に存在しており、一般的には種を超えて感染することはないが、数十年に一度は種を越えることがあるという。近年、人々を不安に陥れたのが2003年に東南アジアやエジプトを中心に発生した強毒性の鳥インフルエンザ(H5N1)だ。これは豚の体内に鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスの両方に似ているレセプター※があるため(注:諸説あり)、まれにではあるが豚を介したり、鳥を生きたまま販売する地域などで、変異を繰り返してヒトとヒトとの間で感染する新たなウイルスに変異したものと考えられている。日本ではこれまで発症した例は確認されていないものの、アジア、中東、アフリカを中心に症例が報告されており、その感染率は低いものの、インドネシアでは199人が発症し、167人が死亡するなど死亡率は高い。