感染者の公表・非公表で悩む段階はもう過ぎた
第19回目 社員情報の発表基準を考える
日本リスクマネジャ-&コンサルタント協会副理事長/社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科教授/
広報コンサルタント
石川 慶子
石川 慶子
東京都生まれ。東京女子大学卒。参議院事務局勤務後、1987年より映像制作プロダクションにて、劇場映画やテレビ番組の制作に携わる。1995年から広報PR会社。2003年有限会社シンを設立。危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。企業・官公庁・非営利団体に対し、平時・緊急時の戦略的広報の立案やメディアトレーニング、危機管理マニュアル作成、広報人材育成、外見リスクマネジメント等のコンサルティングを提供。講演活動やマスメディアでのコメント多数。国交省整備局幹部研修、警察監察官研修10年以上実施。広報リスクマネジメント研究会主宰。2024年より社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科教授。
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地方の報道機関から質問がありました。「なぜ企業は社員の感染者を発表するのか。それが危機管理というものなのか」と。唐突な質問に私も驚き、しばらく記者とやり取りをしました。その後、コロナ対策本部に参加しているという企業の方から「社員が発熱して、発表するかどうか検討している」と相談がありました。どの企業も記者も混乱しているようですので、今回はこの問題について考えます。
著名性、影響性で判断する
リスクの分類からすると、パンデミックは企業不祥事とは異なり、社会全体のリスクとなります。工場で爆発事故が起きた場合には、管理者である工場には説明責任が発生しますから、いつどこで事故が起きて、有害物質が拡散しているのかどうかといった情報開示は求められます。
しかし、企業の過失ではなく、企業努力では防ぎようがない自然災害や今回のようなウイルスの場合は、別の対応になります。2月に一部の著名な上場企業からは公表されるケースが確かにありましたが、あの時点では公表の判断はありだったと思います。
なぜなら、あの時期には今回の新型コロナウイルスについて、その危険性、致死率などほとんど情報がなかったからです。不特定多数の方と接触する社員であった場合は、なおさら影響に対する不安が大きいでしょう。
また、感染した社員が重症で周囲もバタバタと倒れている状態であれば、リスク情報の開示は必要だという判断はあります。最もやってはいけないことは「批判されるからとりあえず公表しておこう」です。
企業ブランド維持のため、社員の陽性状況を発表してしまうと、地方ではすぐに特定されて社員や家族が攻撃の対象になってしまいます。安易な公表は社員を危険にさらすことになる、ということです。企業ブランドと社員を危険にさらすリスクを天秤にかけて企業ブランドを選択する判断は避けるべきです。
ただし、トップや著名人となると違う判断になることがあります。ボリス・ジョンソン英国首相の感染が本人から公表されましたが、国のトップの場合には、コロナに限らず健康情報は影響が大きいため公表は必要です。
著名人がこのウイルスが原因で死亡した場合にも、最重要ステークホルダーであるファンが多いことから、公表は求められると言えます。むしろ公表することが本人の評判を守ることになるのです。
このように、公表するかどうかは影響性や著名性に合わせた判断となります。
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