組織不祥事に関する調査報告書を読むと、大抵、経営者と現場の乖離が原因として記載され、「言えなかった」「言っても無駄」「報復人事が待っている」といった社員の言葉が出てきます。最後の提言には、「言える組織風土」づくりが盛り込まれ、「言える関係作り」こそが不祥事や事件事故を防ぐリスクマネジメントだと記載されます。
では、組織風土はどのくらいの期間で変革できるのでしょうか。長い時間をかけて構築されてきた風土を変えるには、何年もかかると思いがちです。しかし、半年間で風土改革を成し遂げたクリニックがあります。山梨県の医療法人甲府昭和腎クリニックです。
上司や同僚に質問や意見を言えない状態から、活発なコミュニケーションがとれるように変わりました。その結果、インシデントの発生まで抑えられました。筆者も組織改革のキックオフ前に、スタッフへの伝え方を表現訓練で支援しました。危機の時こそ、言葉と伝え方が威力を発揮します。
実際どのように進めたのでしょうか。山梨県の医療法人甲府昭和腎クリニック、井上浩伸(いのうえ・ひろのぶ)理事長兼院長にお聞きしました。
インタビュー動画/リスクマネジメント・ジャーナル
組織変革プロジェクト
ーー井上院長が医療法人での風土改革に取り組んだのは今年の3月からと聞いています。取り組みを決意をした、きっかけを教えてください。
私は山梨医科大学卒業後、勤務医として東京や熊本の病院で約20年間働きました。その後、ご縁があって、2021年に現在の医療法人「甲府昭和腎クリニック」の前身である医療法人永生会「まつした腎クリニック」の副院長になり、経営者目線を持つようになりました。ただし、当時のクリニックは私の理想とするイメージとは異なる姿で、より良くするための提案をしても長年勤める人たちが反対してしまう状態でした。職場全体で建設的な意見を言えない雰囲気がありました。
「何とかしたい」と思いましたが、「大騒動になるから、無理せず何もしないで定年までいたらいいのでは」といったアドバイスをする方もいました。しかし、私はあきらめたくなかった。とても苦しい思いをしていた時に、医療関係者が集まるオンライン会議のiCP(愛に満ちたクリニックをつくりましょうプロジェクト)カフェに参加しました。そして熊本市にある健軍熊本泌尿器科がスタッフ目線で取り組んだ組織変革事例を聞き、スタッフ目線が盲点だったと気づき、この方法ならうちでもできるかもしれないと思うようになりました。
その後、経営が分離し2024年2月に理事長兼院長となりました。このタイミングでやるしかないと決意して、3月から組織変革プロジェクトを開始する意思を固めました。
ーープロジェクト開始に向けてどのような準備をしたのでしょうか。
健軍熊本泌尿器科の事務長をされている日野圭さんやiCPカフェメンバーの支援を受けながら2か月前から準備をしました。自分が理想とするクリニック像を明確にするためにミッション、ビジョン、バリューを作成しました。スタッフの皆に伝えるキックオフにあたって、伝え方や雰囲気づくりも練りました。石川さんと最初にお会いしたのもその頃でしたね。
私が半年間で取り組む組織変革プロジェクトの発表をした時には、本当にそんなことができるんだろうかと驚いていた人もいました。私自身も責任の重さに押しつぶされそうになった時期はありました。3、4月が一番きつかった。もちろん、一人でできないので、スタッフとの信頼関係、笑顔を絶やさないことを心掛け、役職者にあたるコアメンバーとは思いを共有しながら取り組みました。自分の信念だけではできないと思います。一緒に取組んでくれたコアメンバーには感謝しかないです。
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