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シンデミック

社会課題のビジネス化の検討においては社会に関連したリスク(ソーシャルリスク)の状況に注意する必要がある。そして、社会・環境問題は深い部分で関連し合っている事実に注意を払う必要がある。コネティカット大学の医療人類学者メリル・シンガーが1990年代半ばにつくった「シンデミック(Syndemic)」という用語がある。これは、シナジー(Synergy)とエピデミック(Epidemic)の合成語であり、社会・環境要因と健康・衛生要因が重なり相互作用の結果が生じる危機を表現している。例えば、肥満と栄養不良と気候変動との関係のように、社会・環境要因と健康・衛生要因が相乗効果のように重なる現象のことである。リスク管理の世界では、ある事象とある事象が連鎖的につながり想定外の巨大な損失を引き起こす状況を「システミックリスク」と呼んで警戒しているが、その現象の1つといえよう。

2015年段階で、肥満とされる人が20億人に達し、肥満は毎年400万人の死と、1億2000万年分の障害調整生存年の損失につながっている、という。肥満に帰せられるコストの推定値は、世界のGDPの2.8%に急増しているとも言われている。肥満から生じる心血管疾患、糖尿病なども含めて考えるとさらに大きな影響となる。

肥満の火種は、1950年代の化学肥料や化学資材を使う農薬農業への移行と、1960年代の「緑の革命」の開始や高収量品種の作物の導入に伴うその拡大と、1990年代後半の遺伝子組み換え作物の登場によると指摘されている。

一方、農業からの温室効果ガス排出は全排出量の15〜23%を占めていると報告されている。温室効果ガスの排出による温暖化の進行、すなわち気温が1℃上昇するごとに、大気の保水量がおよそ7%増えることによって、水関連の異常気象(冬の豪雪、春の洪水、夏の干ばつや森林火災、秋の巨大なハリケーンの来襲など)を誘発する可能性がある。