2025/04/15
事例から学ぶ
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり

日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
競合他社から仕入れていた製品を、企業の求めに応じて供給。ベアリングの供給不足を防ぐ支援となった。
❷新たな課題を直視し洗い出す
能登半島地震で明らかになったグループ会社と本社、それぞれの課題を見逃さず、改善に生かす。
❸新たな訓練の導入
「企業の対応力は個々人の力の積み上げ」という考えにもとづいた2つの訓練を新たに実施。
能登半島地震での支援要望
産業機械用や自動車用のベアリング製造大手の日本精工。同社の本社や生産拠点は能登から離れた場所にあり、2024年元日の能登半島地震で直接的な被害が発生したわけではない。しかし「社会的な供給責任を果たす機会となりました」と生産本部危機管理グループでマネージャーを務める阪下健作氏は振り返る。
なぜなら、能登半島は競合する他社のベアリングの一大生産地。地震発生から1週間が経ったころから、顧客からの問い合わせが発生。被災した他社からの供給が厳しくなりそうで、支援して欲しいという要望が主だった。
同社が応じたのは規格化されている一般産業機械用ベアリング。まずは在庫などで早急に求めに応じた。阪下氏によれば、有事の際に、復旧作業や製品供給の優先順位を決定する3つの判断基準が存在するという。
「1つはサプライヤーとして顧客に迷惑をかけない。2つに、企業ですから、ビジネス上の戦略的な振る舞い。3つに、社会的責任を果たす。社会的責任の中でも最優先は人命安全の確保になります」
ベアリングが主力製品の同社にとって人命に直接関わる製品は多くはない。例えば、新型コロナウイルスの流行時に治療で用いられて有名になった、肺の代替機能を果たすECMO(体外式膜型人工肺)の部品が該当する。他には、復旧で稼働する建設機器や上水用のポンプなどに同社のベアリングが用いられている。「ただ、実際の製品供給の優先度は、そのときどきの状況に応じて判断することになります」と続ける。能登半島地震での製品供給による支援は、半年ほど続いたという。
日本精工は2011年の東日本大震災以降、BCMSを強化してきた。BCP規程などを整理し地震BCPの再構築を推進。また対象災害の拡大や対策本部運営体制の整備を行い、実効性の向上を目指し取り組みの点検や訓練による課題の洗い出しと改善を進めてきた。能登半島地震で被害はなかったが、こういった取り組みの1つ1つが社会的な責任を果たす力を高めている。
後述するが、同社では2024年の前期より東日本大震災以降に構築したBCPの見直しを図っている。その際のトップインタビューで、取締役で代表執行役社長・CEOである市井明俊氏が「従業員の命を守るのは当然。そして、世の中に迷惑をかけるわけにはいかない。緊急事態が発生したときに医療やインフラ関連の製品供給を止めてはいけない」と強く表明したという。
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