キートレンド(2) 自社インフラをプラスアルファで活用

「駅まちレジリエンス」のモデル駅となった所沢駅(提供:西武鉄道)

BCPを「非常時のためだけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがちだ。しかし「企業価値向上のための取り組み」ととらえると、可能性は広がる。本業の周辺に目を向ければ、災害時できる貢献は予想以上に大きい。西武鉄道(埼玉県所沢市、小川周一郎社長)は2025年度、駅で一時的な帰宅困難者の立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化する。

西武鉄道
埼玉県所沢市

西武鉄道は2025年度、災害対応力の強化に向けて「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化する。大規模地震で鉄道が運行を停止した際、帰宅困難者・滞留者の立ち寄り、一時待機のために駅を開放。飲料水・食料などの備蓄品や周辺の情報などを提供する(駅により提供サービスは異なる)。4月1日から全駅で運用を開始した。

豪雨災害の激甚化や能登半島地震などで防災への関心が高まるなか、社長をトップとする「駅まちレジリエンス強化推進会議」を立ち上げて検討してきたプロジェクト。昨年4月から分科会を含めて毎月会議を開催、12月に施策を取りまとめ、今年1月にはモデル駅となる所沢駅で先行的に運用を開始、3月には一連のサービスの流れを確認する訓練を実施した。

「東日本大震災の際も運行の一時停止で滞留者が発生。この経験から一部の駅には『要配慮者』向けの備蓄がされているが、数量が限られ、大々的に配れる態勢ではなかった。今回の施策では『要配慮者』向けの備蓄を増やすとともに、当社線を利用するお客様、地域に住む方々や帰宅困難者となった方々に対しても飲料水の提供やスマートフォン充電といったサービスを提供、すべての駅でトイレ開放などに対応できるようにした」と、プロジェクトの事務局を務める鉄道本部安全推進部課長補佐の毛利真之氏は話す。

「駅まちレジリエンス」のサービス提供イメージ(提供:西武鉄道)

実地訓練でサービスの流れを確認

画像を拡大 「駅まちレジリエンス」の提供サービス(西武鉄道の資料をもとに本紙作成)

東京都心の北西部から埼玉南西部にかけて鉄道を運行する同社の駅は計91 駅(小竹向原を除く全駅)。これらを駅の規模や駅係員の数などに応じてA・B・Cに区分し、災害時にトイレの開放、沿線マップの配布、周辺情報の掲示、飲料水・食料の提供やスマートフォン充電、駅ナカ・コンビニ「トモニー」商品の無償配布などを行う。区分「A」の駅では構内の一時待機を可能とし、防寒用アルミシート入りの備蓄セットも配る。

●各駅のサービス提供の区分

画像を拡大 提供:西武鉄道

4月からの本格スタートに先駆け、同社は所沢駅をモデル駅に設定して今年1月から運用を開始。3月13日には所沢市と共同で、地震発生から安全確認、サービス提供までの手順を確かめる実地訓練を行った。

午前9時30分に震度5弱の地震が発生し、点検のため半日程度、全線が運転を見合わせるというシナリオ。駅係員が乗客をいったん改札外へ避難誘導したのち施設の安全を確認、電気・水道が使えることを確かめ、その後、トイレ開放サービス、立ち寄りサービス、一時待機サービスを提供する流れだ。

駅内の避難誘導が終了した時点から訓練スタート

訓練は改札内に残った乗客の避難誘導が終了した時点からスタートし、駅係員が駅舎やホーム、隣接建物を点検、危険箇所がないことを確認・報告。「駅係員は建築が専門ではないので単に『安全を確認しなさい』だけでは動けない」(毛利氏)とし、判断指標として独自の「建物安全確認チェックシート」を活用する。

チェックシートは内閣府の指針にもとづいて作成したもので、壁のひび割れや柱の傾きなど約20項目をチェック。係員が判断に迷わないよう点検箇所・方法、判定基準を具体的に明示し、構造上重要な柱は目視のみに頼らず計測器をあてて傾きを測る。

駅係員が施設の安全を点検し報告