2020/05/03
2020年5月号 パンデミックBCP
人類が初めて経験する「現代的パンデミック」
変貌する社会 歴史が示す「選択可能な未来」
――「選択可能な未来」を歴史から読み取るということですか。
半世紀にわたるペスト大流行のあと、ヨーロッパでは労働力の減少と流動化が起き、教会の権威は失墜、支配階級では人材の枯渇と入れ替えが進みました。統治システムの基幹を成してきた封建的身分制度は、結果として解体へ向かいます。
そしてそれは新しい価値観の創造へとつながり、やがてルネサンスを迎えて、社会はペスト前とはまったく違った新しい姿に変貌、ほどなく中世は終焉に至りました。大規模な自然災害もそうですが、パンデミックのようなカタストロフィックな出来事は、社会変革のきっかけになる。今回も十分考えられることです。
ただし、外からの力による変革は、相当の痛みを伴うものです。それは結果として起こるのであって、パンデミックをきっかけに意図的に社会を変えていくという種類のものではないでしょう。
――成り行きを見守るしかない、と。
そうではありません。もし歴史が選択可能な未来を教えてくれるとしたら、それは同時に、私たちはこれからどう生きるのか、どういう社会を目指すのかを問うています。まずは、そのことを考えてみる必要があるのではないでしょうか。
今回、感染防止のためにオンラインのコミュニケーションやリモートワークが進みました。その流れは今後ますます加速するでしょう。しかしそれは、これまでにないストレスを人間に与える可能性もあります。
デジタルはあくまでツール。オンラインやリモートありきではなく、まずは目的が必要です。たとえば、働く人が豊かな生活を送れる、人間らしく生きられる。そのためにどうツールを使っていくのかが、いま私たちが考えるべき問題だと思います。
――人・物・金と情報が地球規模で流動化するグローバリゼーションによって今回のパンデミックが特徴づけられるとしたら、世界がこれほど驚愕している姿は示唆的でもあります。
もしかしたら、行き過ぎたグローバリゼーションを考え直す機会になってもいいかもしれません。
都市の過密化にしても人口の集中にしても、地球環境に負荷をかけないという意味ではいいわけです。至るところに電気を届け、上下水道を整備していくのは、すごく環境に負荷がかかりますから。
しかし行き過ぎた都市化や集中は、今回のような感染症には脆弱です。グローバルとローカル、都市と地方、いろいろなバランスを考えていくことが必要かもしれません。考える時間は、あります。
長崎大学熱帯医学研究所教授 山本太郎氏
やまもと・たろう
長崎大学熱帯医学研究所国際保健学分野教授。専門は国際保健学、熱帯感染症学。著書に「感染症と文明-共生への道」(岩波新書)「抗生物質と人間-マイクロバイオームの危機」(同)など。
2020年5月号 パンデミックBCPの他の記事
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(最終回)
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(その2)
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(その1)
- 人類が初めて経験する「現代的パンデミック」コロナ後の世界 どう生きるか
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方