2020/05/14
2020年5月号 パンデミックBCP

新型コロナウイルス感染拡大への対応で困難な状況にある日本社会において、医療と経済の双方を守る危機管理のあり方が求められている。前回に続き、6 人の危機管理分野のエキスパートによる緊急座談会を紹介する。
参加者は、日本大学危機管理学部の河本志朗教授、名古屋工業大学の渡辺研司教授、防衛医科大学校の秋冨慎司准教授、日本政策投資銀行の蛭間芳樹氏、日本防災デザインの熊丸由布治氏、重松製作所の濱田昌彦氏。司会はリスク対策.com 編集長の中澤幸介。
https://bcp.official.ec/items/28726465
信頼と相互関係ーリスクコミュニケーションの課題
中澤 2011年の福島第一原子力発電所の事故以降、リスクコミュニケーションのあり方が問題になった。その際、問われたのは「信頼」と「相互理解」。信頼とは自分が多少の不利益を被っても、良い結果を期待してそれを受容できる心理状態。クライシス発生時では、トップを中心としたガバメント・統治が求められる一方で、信頼を伴わなければ逆に反発を招く。国民が何を求めているか、何を伝えるべきかの相互理解も欠かせない。河本先生、リスクコミュニケーションに関しての課題は。
河本 いろんな問題がある。コミュニケーションのレベルで分けると、まず政府内のコミュニケーション。政策決定の過程が全く見えない。今回のウイルス対策では、経済、教育、社会心理学、コミュニケーション専門家などが加わって総合的多角的に議論し、知見をまとめた上で政策が決定されなければならない。2つ目は対外的な発信。政治としてのメッセージが伝わるようになっていない。若者への外出自粛の情報伝達などを見ると、検証して改善していくマネジメントが全くできていないのではないか。
3つ目は双方向でのコミュニケーション。国民が何を求めており、それに対して応えられているか。医療界、経済界、国民が求めているものを全部吸い上げて認知し、情報として発信する、あるいは政策として応える。もう一つはメディアの伝え方。果たして、メディアが国民の行動変容が必要だと言うならば、国民の変容を促す伝え方になっているか。これらの点で、コミュニケーションの失敗が明らかになっている。AAR(After Action Review)を厳しくやらなければならない。

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