池田小学校事件を振り返りますと、1次の予防では、例えば、声掛けできなかったことが反省に挙げられました。犯人が入ってきた時に、最初に出会った先生が犯人に対して、「どちらさんですか」と、声が掛けられなかった。事件の日は、午後から研究発表会が予定されていて、全国から来る予定でしたから、出会った時に関係者かもしれないし、PTAかもしれないと思って、問い掛けができなくて会釈で終わったんですね。もし、しっかり声を掛けていたら、事件は未然に防げたのではないかということで、ネームプレート制度をつくりました。

2次予防である早期介入ができなかったことは多くの反省がありました。先ほど申しましたように、児童の安否や出席の状況がすぐに把握できなかったという点が1つ。しかし、小学校側が遺族の方の心情を害した最大の要因は、救急搬送であったと思います。

犯人が侵入して子供たちが傷ついた後、救急車を呼んだ回数が多かったのは、小学校ではなく、けがを負わされた子供が助けを求めて逃げ込んだ学校の向かい側にあるスーパーでした。

池田市の救急隊は、池田小学校の傷ついた子供をスーパーで収容したことで、その案件は終わったと思い込んでしまいました。結果、学校からの連絡が上手く伝わらず、正確な状況が理解されるまでに20分ほどの時間を要することになってしまったのです。今では、助けが来るまで何度でも何度でも119番をかけ続けるように徹底しています。

事件で亡くなった子供たち8人は失血死です。もし早急に救急車が要請されて、病院へ搬送されていたら助かったかもしれない。現場では、次々に到着した救急車が状況を見ては、緊急無線で応援を呼び、池田の救急車だけでは足りなかったので隣接の地区、さらに県を越えて何台もの救急車が来ることになりました。少数のけが人であれば搬送する救急車に職員が同乗して一緒に病院に行くのですが、
それができませんでした。

当日、救急車等で医療機関へ運ばれた子供は30人近くいました。池田小学校の教職員は全員で25人程度、そのうち犯人と格闘している教員が数人、犯人に刺されて重傷を負っている教員が2人、それから他の子供たちを2階3階の教室で確保していた教員、運動場に逃げてきた子供たちを集めて保護していた教員もいました。救急車は負傷した子供たちをどんどん搬送していきました。

しかし、どの子をどこの病院に連れていくのかを伝えているわけではなく、連絡を受けた保護者が学校に来ても、我が子がいないという状況になってしまいました。

うちの子はどこにいるのだと聞いても、学校は把握していない。この段階で信頼をなくします。最も遅くなった場合では対面が深夜になった保護者もいたと聞いております。

しかし、やっと会えた我が子は亡くなっていたのです。病院へ搬送された時には意識があり、お母さんを呼んでいたとも報告されています。たとえ助からないとしても、息のある間に我が子の手を握ってやりたかった、その時間を奪ったのは学校だ、という心情にならざるを得ません。もちろん、学校だけで解決できることではありませんが、やはり関係団体を含めた協働体制が必要になるということです。

Q15.早期発見、早期介入が特に難しい部分だと思いますが、訓練はどのようなことをしているのでしょうか?

池田小学校では事件後、年6回の不審者対応訓練を行っています。訓練は警察の指導を受けながら実施しており、良い訓練だという評価をもらっていますが、それを見た事件の遺族の方から、「教師が刺又を持って犯人と格闘するような訓練なんか期待しない。それよりも傷ついた子供を搬送する訓練を重点的に行うことが大切なのではないのか」というご指摘をいただいたことがあります。命を救う訓練をやるべきだということです。附属池田小学校では、こうしたご指摘を受けながら、日々改善を進めています。

Q16.子供たちへ教える際の注意点などあれば教えてください。

一番気を付けているのが「安全」の考え方です。「安全は危険・危機の残余範疇」という言い方をします。つまり危険でないことが安全という考え方です。これを言葉で教えることは大変難しい。

危険ということは教えやすいですが、危険ということを強調して教えてしまうと、それは結局「犠牲者非難」(victimblaming)ということになってしまう。つまりは「脅し教育」です。危ないことを教えることは、危険を見つけなさいと伝えているのと同じで、見つけられなかった時は、見つけられなかった「あなたが悪い」ということになってしまうのです。

事件に巻き込まれてしまった子は「あれほど変な人について行ったらいけないと言われていたのに、行ってしまった自分が悪い」と考え、自分自身を非難して、それを隠そうとしてしまう。

隠すことによって、2次被害、3次被害が出る可能性も出てきます。脅し教育は教えやすい。しかし、国でもそうした教育のあり方を変えなければいけないという方向になってきています。どうすれば危険ではなく安全になるのか、何があればいいのか、どうすればいいのか、そうしたことを気付かせる教育が必要でしょう。

ここが危ないと思う理由が、もし見通しが悪いからだったら、じゃ、草を刈ったらいいねとか、落書きがあって悪い人が集まりそうな場所なら、落書きを消してきれいにすることで、みんながそこに注目してることで安心感が出るよねとか、こうしたことに気付かせることが大切なのです。

Q17.相模原の施設を受け、あらゆる施設、組織で危機管理のあり方が問われています。

 

いろいろ申しましたが、実際には1つの組織だけの取り組みで守ることはとても難しいことです。池田小学校にしても、警察、消防、近隣の商店街、そしてご家族、地域のすべての方々の協力を得ながら進めています。

ですから、私たちは「チーム学校」「チーム組織」という考え方を提唱しています。重い神輿(みこし)はみんなで担ごうという言葉がありますが、一人ひとりの力は限られているので、その力をどれだけ集められるかがポイントになってくると思います。

 

 


藤田大輔(ふじた・だいすけ)

大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター長。2007年4月~ 2011年3月まで、大阪教育大学附属池田小学校長。2012年4月から大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター長。2014年からは学長補佐(学校安全担当)を併任。学校安全教育カリキュラムの開発、情報機器を用いた学校安全管理システムの開発、諸外国で共有可能な学校安全チェックリストの開発、安全教育データベースの構築準備などに取り組む。