2019/09/26
昆正和のBCP研究室
■「パブリックな被害想定を使う」の考察
国や各自治体では定期的に大規模災害による被害想定を公表する。これから起こるとされる南関東直下地震(首都直下地震なども含む)や南海トラフ大地震などは、これまでさまざまな被害想定が出されてきた。したがって、来るべき大規模自然災害をBCPの前提とするなら、これらの豊富なデータを用いることができる。ただし次の点にも注意が必要だ。
それは、国や各自治体が公表するデータは広域的、マクロ的なので、各企業がこうしたデータをBCPに取り入れようと考えたら、そのままコピーアンドペーストするしかないという点である。例えば内閣府防災情報のページにある「首都直下地震の被害想定と対策について」では次のような被害想定が掲載されている。
(1)電力:発災直後は約5割の地域で停電。1週間以上不安定な状況が続く。
(2)通信:固定電話・携帯電話とも、輻輳のため、9割の通話規制が1日以上継続。メールは遅配が生じる可能性。
(3)上下水道:都区部で約5割が断水。約1割で下水道の使用ができない。
(4)交通:地下鉄は1週間、私鉄・在来線は1カ月程度、開通までに時間を要する可能性。
このようなテキストと色分けされた被害想定図などを何枚か貼り付ければ、ある程度もっともらしいBCPにはなるだろう。また、インフラの停止や道路の寸断状況はどの企業にとっても共通の関心事だから、有用であることは否定しない。しかし、こうした大局的な想定だけでは自社が被るかもしれない被害や影響の具体的な姿は見えにくい。この種の被害想定を自社のBCPの方針・対策・手順に反映させるのは容易ではない。
昆正和のBCP研究室の他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方