上下関係に潜む闇

「よーし! じゃ、次の店、皆行きたいよな?」と部下を連れて行くのが、その手のお店。つまり、女性が性的なサービスをするお店です。Bさんは、お酒以上にそういう場所が苦手で、一度部長にハッキリ断ったことがあるのですが、「なーに言ってんだ。そんなことだから嫁さん来ないんだよ!」と軽く頭をはたかれて、まったく取り合ってらえません。盛り上がる同僚たちを横目に時計ばかり眺めていると「おいおい、B君はまだ女性経験がないみたいだぞ!」と大声で言われ、みんなは一斉に爆笑。えげつないヤジの嵐となったのです。 

Bさんはそのことを思い出すたびに気分が悪くなり、ある日を境に、電車に乗れなくなってしまいました。心療内科を受診すると、ストレスによる症状という診断で、1カ月の休職を要するとのこと。部長に診断書を郵送し、今は自宅で休んでいます。

昨今、お酒の席での振る舞いが、働く人のモチベーションを左右することもある、という考え方が浸透してきました。アルコールハラスメント(アルハラ)という言葉もあるほどで、昔は職場の潤滑油だったお酒も、今では個人の趣味として、無理強いはできない時代です。

今回の事案は、2つのハラスメントが含まれていました。一つは無理矢理二次会に誘うこと、そして、Bさんの女性経験について侮辱とも取れる発言をしたことです。いずれもお酒の席で行われたことなので、アルコールハラスメントとして分類できますが、その背景には、上司と部下の関係があったことを忘れてはなりません。

仮に同僚から誘われたら「飲みたくないよ、行きたくないよ」と断ることもできたかもしれませんし、断ったからといって自分の立場を心配しなくてもよかったでしょう。

ほとんどのハラスメントには、パワーが潜んでいることを、特に部下を持つ立場の方は肝に銘じておきましょう。そしてもう一つ。周囲で一緒になってBさんをはやし立てた仲間も、同罪です。

(了)