その持ち物や掲示物、周りの迷惑かも
何気ない家族写真が招いたトラブル
日本リスクマネージャー&コンサルタント協会 理事、一般社団法人日本コンプライアンス推進協会委員/
株式会社プラネット 代表取締役
根岸 勢津子
根岸 勢津子
1962年千葉県生まれ。外資系海運会社、IT企業などで役員秘書を経験したあと、大手損保代理店に転職。企業リスクマネジメントを学ぶなか、産業界にヒューマンエラーによる不祥事が続発したことを受け、働く人の心の健康に着目。法人向けのメンタルヘルスケアに特化して事業を進め、2006年法人化。現在、クライアント企業は80社を超え、大手外食チェーン、医療福祉・介護業界、物流業など、様々な業種業態の企業に対して、社内規程づくりから教育研修にわたり幅広く指導。執筆・講演など多数。東京都千代田区在住。趣味は、夫と楽しむバイクでのツーリング。
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言えない悩み抱え爆発
「うわぁ、B課長! これヨーロッパですよねえ。素敵~。お嬢さん、カワイイ!」。数名の女性社員に取り囲まれ、嬉しそうなB課長(40歳男性)の声がそれにこたえます。「うん、この前のゴールデンウィークのときの写真だよ。家族を連れてプラハの辺りをまわってきたんだ。若いころ、その辺を旅したことがあって、美しい街並みを娘にも見せたくてね」「お嬢さん、小さいころから世界を見られるなんて、幸せですね」。その会話を苦々しい思いで聞いていたのがA子さん(34歳女性)です。
ここは都内のアパレル卸企業(従業員数300名)で、A子さんは総務部の主任をしています。A子さんは5年前に結婚しており、「男性優位のこの会社で、仕事と家庭の両立のロールモデル(お手本)になってほしい」と部長からも期待されている立場でした。
ところが彼女には人に言えない悩みがあったのです。それは、なかなか子宝に恵まれず、ここ数年不妊治療に取り組んでいることでした。それは想像していたよりもずっと辛く、先の見えない治療に不安な思いでいっぱいでした。このことはもちろん会社にも伝えていませんので、治療の時間を捻出するのも一苦労です。
仕事の報告のためにB課長のデスクに行けば、幸せいっぱいの家族写真がいやでも目に入ります。A子さんはそれを見るたび、義母からのイヤミな電話や、クリニックでの夫の落ち込んだ表情などが一気に頭の中に押し寄せ、「どうして私だけこんな思いを……」という感情で押しつぶされそうになります。
そんなある日、A子さんは些細なミスをして、B課長にきつく注意されてしまいました。「君、最近ちょっと集中力が落ちてない? また同じところを間違えてるよ。何だか普段もボーっとしてることが増えたし、悩みごとでもあるのかな? プライベートはどう? 楽しくやってるの?」そう言われたA子さんはカチンときました。
「何よ、偉そうに。自分は奥さんや子供に囲まれてシアワセ自慢しちゃって! 私の悩みも知らないくせに。《プライベートはどう?》ですって? そもそも家族の写真を飾ってるのって、子供ができない私への嫌がらせじゃないかしら? そうよ、きっとそうだわ。これはハラスメントだわ。この前会社から配られた、ハラスメント通報ダイヤルの番号が書いてあるカードはどこだっけ……」。
こうしてB課長は、A子さんからハラスメントの加害者として通報されてしまったのです。
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