緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。

まずは学習の目標を設定しよう

稲垣 忠(いながき ただし)
東北学院大学文学部教授。専門は教育工学。日本教育工学会、日本教育メディア学会理事。編著に『探究する学びをステップアップ! 情報活用型プロジェクト学習ガイドブック2.0』(明治図書 出版)など多数。

ーーリスクマネジメントや危機管理、災害対応の担当者は、社内教育も担うことが少なくありません。一方で、教育方法を教わる機会は限られています。社内で教育や研修を実施するうえで重要なポイントを教えてください。

教育で大切なのは学習目標の設定です。最終的にどういう姿になって欲しいのか、何が可能になって欲しいのか。それをしっかり明確にしましょう。そこから逆算して授業の形や教材の設計を考えていく方法があります。「逆向き設計」と言います。

さらに学習の場を設定するときに重視すべきは「効果」「効率」「魅力」を高めること。「効果」は、できるだけ多くの人が合格水準に達するような学習成果を実現すること。理解の深まりや新たなスキルの獲得といった成果になるでしょう。「効率」は人手や時間、コストをあまりかけずに。「魅力」は、研修自体の面白さ、楽しさだけでなく、願わくは終わった後にもっと学び続けたいと思えるかになります。目標設定が明確でないと、指導と評価が難しくなります。

ーー研修や授業は、どのように組み立てるといいのでしょうか。

画像を拡大ADDIEモデル(提供:稲垣忠氏)

授業や研修づくりを助ける方法の1つが「分析」「設計」「開発」「実施」「評価」の順番で考えるアプローチです。「分析」では授業の入口と出口を明確にします。入口とは、授業をする前に行う、参加者の学習の理解度などの状況把握です。他にも、発言が活発なメンバーか、グループ学習への慣れなどが当てはまります。出口とは、目的と同義で求める姿や習得して欲しいスキルになります。

「設計」は、どのような授業を進めるかの見取り図に該当します。具体的な授業の内容や指導の方法、進行の流れになります。「開発」は授業実施のための準備に当たります。一般的な授業タイプで実施するかグループワークか、はたまた参加者全体で話し合うのか。また資料や道具の利用を考えたり、ゲストを招いたりすることもあります。

「実施」は、授業や研修の開催です。ただ設計した内容をそのまま説明するだけでは、得られる知識に限界があります。目線の場所や話し方、問いかけのタイミング、説明方法など、講師は学習者の反応を見ながら工夫します。「評価」は授業の振り返りを実施し、うまくいった、うまくいかなかった両方の原因を整理し次に活かしていきます。

以上は分析(Analysis)、設計(Design)、開発(Development)、実施(Implement)、評価(Evaluation)の頭文字を取ってADDIEモデルと呼ばれています。