2016/05/24
誌面情報 vol55
実際、国内では、災害が起きるたびに情報システムが大きな被害を受けてきた。東日本大震災では「停電や通信のトラブルにより、ネットワークが長期間使えなくなった」「自家発電装置の燃料切れでシステムがダウンした」「サーバそのものが被災してデータの復旧が困難になった」「地震の揺れによりスプリンクラーが作動しPC端末やサーバが被災した」などの被害が数多く報告されている。
今回の熊本地震でも、現地の復旧にあたっているシステム会社の担当者によれば、PCの落下事故や、スプリンクラーの誤作動による被害が多発し、行政機関でも主要な防災システムが地震の揺れで被災したという事例も出ているそうだ。
こうした災害への備えとしては、一般的には、①BCPにおける優先業務を支える重要な情報システムを可視化、②仮に被災した際の目標復旧時間と、どのシステムをいつまで前のどのレベルまで戻すか目標復旧レベルをそれぞれ設定、③重要システムの構成・構造を明確化(PC、サーバ、LANケーブル、ルーター、電源、WI-FIなど)、④システムが抱える脆弱性を評価、⑤目標復旧時間内に再開・継続できるよう対策を検討・実施、という視点が求められる。
ところが、サイバー攻撃を想定した場合は、こうした視点で対策を行っていたとしても、スムーズな対応ができるとは限らない。そもそも被害を受けている場所や被害の範囲を特定することが難しく、被害状況を分析することが極めて困難となる。例えば、マルウェアが侵入して個人情報や機密情報が漏えいしているような場合、どれだけ個人情報が流出してしまっているのか、そもそも原因がサイバー攻撃かどうか判明させることも容易ではない。最近流行しているランサムウェアなら、反社会勢力になりうる敵に費用を払ってまでシステムを継続させるのか、解決策が見つかるまで復旧をあきらめるのか、難しい判断に迫られる。
こうした点について、2012年に経済産業省が出した「ITサービス継続ガイドライン(改訂版)」では、『ITサービス継続について、情報セキュリティに求められる「情報の機密性」「完全性」および「可用性」の中で、ITサービス継続は、主に「可用性」の維持に関係するものとして位置付けることができる』とした上で、『緊急時においては、ITサービス継続が主眼とする「可用性」の側面と「機密性」「完全性」の両立が困難な場合も想定されるが、企業の社会的責任や企業経営などの視点から合理的な判断に基づき、より重要と考えられる概念が優先されるべき』としている。
つまり、システムを継続することを前提としながらも、情報漏えいや、データの損失を食い止めるためには、時としてシステムを止めるなど、BCPとは相反する決断が必要なケースもあり得ることを示唆している。
誌面情報 vol55の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方